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第7話
瞬間誠の手が離される
「…九条…」
「はい、……あ、お邪魔でしたね」
苦笑いを浮かべ首を竦めた九条がペロッと舌を出す
「あ、いや……」
「あはっ、渡瀬さんの照れた顔、やっぱり可愛い!」
九条は然り気無く誠に近付き、上目遣いで誠を見た
と同時に誠の腕に軽くタッチする
それを誠は何も感じていないのか……拒否する訳でもなく九条に赤くなった顔を見せる
…何だか、僕が邪魔してるみたい
疎外感を感じ、何となく居心地が悪い
直ぐそこに誠の手があるのに
……何だか遠い…
「…あ、糸屑付いてる」
九条の手が伸びると同時に、もう片方の手が誠の腕を引っ張る
それに誘導され誠が少し屈むと、誠の襟足辺りに伸ばされた手がそこに触れた
「……!」
余りに自然に二人の間の距離が縮まり
顔が急接近する……
このまま、誠の頬に九条がキスをするのではないか…という程だった
胸の奥がズキン、と痛む
そんな二人を見たくなくて
そこから顔を逸らす
「………」
どうしてこうなったんだろう……
二人で食事の筈が、三人で居酒屋になってしまっていた
「で、女子社員全員一致で、ハンサム部門No.1は渡瀬さんって言ってました!」
「……え、僕?!」
誠に身を乗り出して九条が陽気に喋る
それに対し、誠は九条に表情豊かな顔を見せた
話題は仕事や職場の事が中心で、蚊帳の外の僕は話についていけない……
「………」
甘いカクテルを口にし
ほろ苦い気持ちも一緒に飲み込む
すると誠が僕の様子に気付きこちらに目を向けた
「……同じもの、飲みますか?」
「…い、いえ」
「では、別のものを……」
誠がメニュー表を探すと、九条が手際よくそれを誠に渡す
それを受け取る時、誠の大きな瞳が九条を捉える
それに答えるように笑顔を向けた九条の頬は赤く、蕩け潤んだ瞳を誠に向けた
「………」
モヤモヤとした気持ちが膨れ上がっていく……
空になったグラスをテーブルに置くと、ぽつりと呟いた
「……もう」
帰りたい……
二人の姿をこれ以上見たくない……
何だか見せつけられている様で
……辛い…
二人が再び会話を弾ませた時
僕はそっと席を立った
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