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第8話
少し冷静になれればと、トイレに籠る
誠にとって九条は、同僚であり後輩であり
教育係として仲を深めるのは仕方のない事で
それを僕がいちいち気にしていたら
誠の足を引っ張る事になってしまう……
手洗い場の鏡に映る自分を見ながら、そう言い聞かせる
「………」
きっとこの後、誠さんと二人きりになれるだろうし
……そしたら、少し
甘えさせて、貰いたい…な……
誠と手を繋いだ感触を思い出し、きゅっ、と手を握る
淡い期待をしつつ、トイレを出る
そして二人のいるテーブルにそっと戻ると、驚きの光景を目の当たりにした
「…渡瀬さん……」
九条が涙を浮かべ、誠の傍に擦り寄っていた
「…大丈夫、九条は頑張ってるよ」
誠が九条の肩に手を置き、慰めている
「………」
何だかそれは二人だけの世界で
僕が気軽に近付けるものではなかった
「もう少し、話聞いて下さい」
「うん、聞くよ」
そう答えた誠が、僕の存在にやっと気付く
こちらに誠が顔を寄越したのに気付いた九条は、僕をじっと見据えた
そして僕に挑発的な目に変わると、片側の口角をクッと吊り上げる
「……!」
その不敵な笑みに、僕は心臓が止まりそうだった
「すみません、今日は九条と少し語りたいので…申し訳ありませんが……」
「………」
「この埋め合わせは、必ずしますので…」
誠の眉尻が下がる
…困らせたくない
でも二人きりにさせたくない……
そうは思うけど……
「…はい、解りました」
そう答えるしかなかった
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