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第10話

エレベーターから降りた九条は こちらに気付き、口端を少し上げた そして首元に手を添え、襟を正す 「……今晩は」 張り付けた様な笑顔を僕に向ける 「こ、こんばん…」 「誠なら、今シャワー浴びてると思うよ」 「……!」 九条が僕の直ぐ傍まで近付く するとそこから、石鹸の香りがふわっと鼻をついた 「確かめてみる? そんな勇気があったら、だけど…」 九条は挑発する様な笑顔で僕を敵視した 「成宮さんだっけ…? 正直あなたより僕の方が、誠と相性いいと思う」 「………」 「…体の方もね」 ……え 瞬間、頭の中が真っ白になる ジリジリと頭が痺れ、立っているのもやっと ……嘘…… 九条は毅然とした態度で僕の横を通り過ぎた 僕は確かめる勇気もなく 暫くその場に立ち尽くしていた バイトは散々だった オーダーミスが目立ち、僕はひたすら謝り続けた やっとバイトの時間が終わり、大きな溜め息をつく 日が延びてきたとはいえ 辺りもう仄暗い 身支度をし、店の裏口から出た時だった 「……今帰り?」 声を掛けられ、驚いて声の主を見た 「え、…あ、はい」 返事をしつつよく見れば、相手は最近よく来るお客さんだった 筋肉質でガタイのいい男は、ニヤニヤと厭らしい顔つきに変わる 「…ねぇ、これから一緒に遊ぼうよ」 「……え」 男が迫る お客である事を考慮すれば、下手な事はできない…… 「あ、あの……」 どう対処すればいいか解らずにいると、男の手が伸び僕の手首を掴む 「いいじゃん、行こうよ」 掴まれた所が湿って気持ち悪い 「こ、困ります……」 「はは、その顔も可愛いな」 眉尻を下げ懇願すれば、男は更にニヤニヤと厭らしく口を歪ませた 少しの抵抗も効かず、ズルズルと引き摺られる ……や、やだ…… それでも無下に出来ず、完全に否定できない…… …どうしよう…どうやって逃げよう…… 必死に思考を巡らせていた瞬間 掴まれた手に、もうひとつ手が加わった

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