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第11話

その手を辿って視線を上げる と、そこには懐かしい人物が立っていた 「オイ、俺の女に何してんだよ!」 少し赤みがかった髪、右耳にシルバーリング くっきりした二重に、ちらりと見える八重歯…… 「……悠」 そう呟くと、僕の手を掴んだ男がチッと舌打ちして手を離し去っていった 「双葉」 悠が僕に笑顔を向ける 悠から漂う、太陽の様な潮風の様な、爽やかな香り… その懐かしい匂いにホッとしたのか、僕の涙腺が緩んだ 「…大丈夫か?」 ふわりと悠に抱き締められる 胸にいっぱい悠を感じ、その温もりに支えられる 「……うん、ありがと」 そう答えて悠を見る 近い距離… だけどそれ以上近付いちゃダメ…… 元彼の悠は、一年程前 親が決めた相手と結婚してしまった 沢山のすれ違いが生じて、最終的に僕は悠と離れた、のだけど 嫌いで別れた訳じゃない、から まだ僕の中に残る想いが少しはあって …それが悪戯に疼いてしまう 「……悠」 そう呟いた僕の唇に 悠の人差し指が触れる 「バカ、…キスしたくなるだろ」 「……!」 『…俺の名前呼ぶ度、唇がキスの形になってる』 悠に昔言われた言葉を思い出し、目を伏せる 「…ご、ごめん」 そんな僕の反応に拍子抜けしたのか 悠から笑顔が消え、僕の顔を覗き込んだ そして頭をくしゃりと掻き上げると、悠のもう片方の手が僕の手を握った

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