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第12話

その懐かしい温もりは 心の隙間を優しく埋める 悠が僕の手を引き、夜の街を一緒に歩く 何処に行くともなく 僕はただ、それに身を任せていた 「俺さ、今ショップで働いてんだぜ」 悠の話をぼんやりと聞く 僕は、社会復帰の第一歩を踏み出すのに半年以上かかってしまった だけど悠は、辛い状況の中 持ち前の明るさと気の強さで しっかり地に足を付け前を向いて歩いてる…… 「響子って覚えてねぇ?…双葉会ったんだってな! あいつ、それまで自分の店持つ為に海外飛び回っててさ で、先月、念願叶って店オープンしたのよ 俺そこで働かせて貰ってんの」 「………」 響子は、悠の異父姉弟だ 『もし悠の事を少しでも想ってくれるなら もう悠には構わないで……』 悠ではなく誠を選んだ僕に そうハッキリ言った、悠想いの優しいお姉さん…… 僕の知らない所で 響子と大輝の二人が、悠を支えて ここまで立ち直らせたのだと思うと… 計らずしも悠と再会し こうして手を繋いでしまって良かったのか…と、良心が疼いた 「……悠」 握られた手を、離そうとする が、悠はそれを許さず 僕に八重歯を見せる 「それと、俺やっとできたんだぜ、離婚」 「え……」 驚く僕に、悠の視線が真っ直ぐ注がれる 「俺さ、双葉にした約束、忘れてねーから」 強く手を握られたかと思うと 路地裏にある建物と建物の間に引っ張り込まれる 細く暗いそこは人が通る様な場所ではなく 僕と悠の二人だけしかいない その壁に、ドン、と背中を押し当てられる 「……ゆう?」 掴まれた二の腕が痛い… 見上げれば、眉根を寄せた悠の顔があった 「双葉……さっきから何て顔してんだよ……」 「……え」 「そんな顔してっから、さっきの野郎につけ狙われるんだよ」 ……そんな顔って、どんな…? 解らなくて悠を見つめ返すと 悠の顔が近付き、唇に熱が強く当てられた

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