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第15話
不意に悠の顔が近付く
と、僕の鼻先に熱い息がかかる
反射的に、首を竦めて少し距離を取ると
悠が意地悪く八重歯を見せた
「もっかい、シよ…」
「……え、だめ…」
「何で?…もしかして、彼氏に罪悪感感じてる?」
「…うん…」
「今更、一回も二回も変わんねーよ」
「……でも」
「双葉を寂しい思いさせたのが悪いんだって!」
「………」
僕が言葉を詰まらせると
八重歯を見せた顔を寄せる
「…やだ、しない……」
「いいだろ」
悠の体を押し返すも、悠は強引に唇を寄せた
僕は頬を膨らませ、胸の前で刃物を持ったような構えをして見せる
「……やったら、刺すからね」
その言葉を聞いた悠が、にまっ、と笑った
「双葉、…それ俺だから!」
そう言って悠は上体を上げると、僕を簡単に組み敷いた
その時、テーブルの下に落ち
暗闇で光る携帯が震えているのに
僕は気付かなかった……
……誠さん…?
目の前に、スーツ姿の誠がいた
誠は寂しそうに口端を上げてこちらを見る
…僕の事、待っててはくれなかったのですね
形の良い唇が小さく動く
……え…
自分の体を見ると、一糸纏わぬ姿でベッドの上にいた
そして隣には、寝息を立てる悠……
……ごめんなさい…
…いえ、謝らないで下さい
これで決心がつきましたから…
誠の隣にスーツ姿の九条が現れ
僕に勝ち誇った笑顔を向ける
…僕の新しい恋人です
……ま、誠さ……
九条は誠の腕に絡みつき、上目遣いで誠を見る
…行こ、誠
…そうだね
今まで向けてくれた誠の優しい笑顔が、九条へと変わる
…待って、行かないで!
ベッドから降りようとすると、寝ていた筈の悠に手を握られる
…双葉、もう諦めろ
お前は俺のモノになるって、約束しただろ?
「………!!」
パチン、と瞼を上げた
目に飛び込んできたのは、普通とは少し違う天井……
……夢?
苦しんでいたのか、寝汗で体がベトベトする……
と、手を繋がれている事に気付く
隣を見れば、肌を露にした悠が、寝息を立てていた
「………」
僕はその手をそっと離し
悠を起こさない様にベッドから下りる
体に残る、悠の感触
何ともいえない、後味……
シャワールームに入ると
鏡に映る自分の姿を見る
首筋や鎖骨に
悠が付けた痕が残っている
「………」
夢のせいもあり
不安が一気に押し寄せる
僕は熱いシャワーを浴びながら
流れる涙をそれに隠した
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