16 / 92

第16話

服に着替えて部屋に戻る と、悠が上半身裸のまま突っ立っていた 「……ゆう?」 声を掛けると、悠の手元に僕の携帯電話がある事に気付く 「お、おう…」 「……それ、僕の…」 悠に近付き手を伸ばすと、悠は少し複雑な表情のまま僕に返す 「…ベッドの下に落ちてたぜ」 「ありがと……」 携帯を受け取ったと同時に 悠が僕の腕を掴んで引き寄せた 気付けば僕は、悠に抱き締められる 「……俺、まだ双葉の事諦めた訳じゃねーから」 強く抱き締められ 悠の熱い息が耳に掛かる 「俺なら寂しい思いなんか絶対させねぇ…」 悠の真っ直ぐな想いが 僕の心に痛い程伝わる だからこそ 僕の誤った行動が悔やまれる ……僕がもう少ししっかりしていれば…… 繁華街の一角にある小さな美容院 シンプルなデザインの店内に入ると 華やかなスタッフが出迎えてくれる 「久し振り、双葉チャン」 店長の透が僕に気付いて声をかける 「髪伸びたわね!…でも、女の子みたいで可愛いわ」 筋肉質で太い腕の透が、胸の前で手を合わせる 店内を見渡せば、奥でお客の髪をカットをしている兄の姿が見えた 女性スタッフに洗髪された後、指示された席に座る と、鏡越しに背後に立つ透と目が合う 濡れた僕の髪に触れ、透が僕の耳元に顔を寄せた 「……新しい彼氏、できた?」 動揺して透を見ると、透の指が僕の横髪を掬う 「短くするとここ、目立つわよ? ……長さはこのままで、全体を軽くする感じでいいかしら?」 悠が付けた痕が生々しく 存在を主張する 「…うん、おまかせします」 透は、僕の良き理解者の一人だった 一年程前、酷く落ち込んでいた僕を、兄が勤め先であるここに連れ出してくれた事がきっかけだ 「彼氏が結婚?! ……それは酷な話ね……」 透は僕に自分がゲイである事を打ち明けてくれた だから、僕も悠の事を話せたのだと思う 「で、大輝って人に支えられてるの? なにそのキュンキュンする設定 ……もう、その彼に乗り換えちゃいなさいよ!」 「大輝は…そんなんじゃ……」 「…双葉チャン、そんなにいい子しなくてもいいのよ 恋愛はもっと自由にしなくちゃ」 そんな事を言っているけれど 透はノンケの彼に恋をしていて、苦しい思いをしているらしい

ともだちにシェアしよう!