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第17話
「彼氏ってどんな人?」
「……とても、優しいです」
答えながら、鏡越しの透から視線を逸らす
「いいわねぇ……やっぱり優しい人に限るわよね」
「………」
「どうしたの?何かあった?」
髪に櫛が通り、鋏が入れられる
一定のリズムを刻み、髪がはらはらと床に落ちてゆく
「……昨日、悠と偶然会って」
目を伏せたままそう言うと、透の手が止まる
「…もしかしてこのキスマーク、
悠クンの?!」
僕は小さく頷いた
「やだ、私の好きな展開!
……ごめんね、一人で盛り上っちゃって…
…そう…
今の彼氏と悠クンの間で、気持ちが揺れ動いて苦しんでるのね」
透が再び鋏を入れる
「……そうなの、かな…」
「そうよ…真面目な双葉チャンが簡単にスる訳ないもの……」
「………」
「今の彼氏と何かあったか、悠クンを心の奥底で一番に思っているか
若しくはその両方か……」
透の言葉に動揺した
僕が悠を、一番に想ってる…?
揺れ動いたのは確かだ
けど、そんな事言われるなんて思わなかった
「…誠さんと、連絡が取れなくて……」
「彼氏、誠クンって言うの?
…こんな可愛い双葉チャンを放っておくなんて……
ほんとに優しいのかしら?」
髪に櫛を入れ、鏡で確認しながら透が口を開く
「…優しい、です……皆に…充分すぎる程…」
「ああ成る程ね、そういう事……きっと無意識なんでしょうけど、罪深いわね」
僕の前に来ると、透は前髪に櫛を通し鋏を入れる
僕はしっかりと目を閉じた
「………」
「…ねぇ双葉チャン…
双葉チャンは、誰とどうなりたいの?」
「……え…」
驚いて目を開けると、視界一杯に透の顔と鋏があった
慌てて目を瞑ると、透がクスッと笑う
「誠クンか悠クンか
或いは他の子か…
まずはそこハッキリしなさいね」
透の言葉が胸に刺さる
鏡越しに透を見ると、穏やかな表情で透がこちらを見た
「……まぁ、私だったら悠クンを選んじゃうかな」
そう言って透は意地悪く笑うと
僕を洗髪へと誘導した
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