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第18話
「ねぇ双葉チャン
今度スタッフの皆で飲みに行く話が出てるんだけど
双葉チャンも気分転換に参加しない?」
ブローを終えた時、透からお誘いを受ける
「店長、双葉を取り込んでも僕は参加しませんからね」
背後を通り過ぎる兄が、こちらをちらっと見て言い放つ
その表情は険しく、殺伐とした雰囲気を醸し出している
「……」
「まぁ、気にしないで…」
透は僕に努めて明るく言った
会計を終え、僕はお客の髪をカットする兄の姿に目を移す
兄は、僕が男性と付き合う事を快く思ってはいない…
悠と付き合っていた頃、一度は受け入れようと努力してくれたみたいだけど
今は僕が正気に戻って、女性とお付き合いする事を強く望んでいる
だからなのか
単に忙しかっただけなのか……
兄は一言も僕に声を掛けてはくれなかった
「日時が決まったら、連絡するわ」
店を出る時、透は笑顔で手を振った
少し軽くなった毛先
夏を感じる風がそれを揺らす
悠に付けられた痕が覗くと、僕はそれを隠すように手櫛で髪を整えた
アパートに帰り、ベタつく汗を流そうと脱衣所へ向かう
ポケットから携帯を取り出し、何の気なしに着信履歴を確認した
「……!」
一番上に表示されていたのは、誠の電話番号
……え、昨日…?
瞬間、悠との不貞行為を思い出し、罪悪感に苛まれる
首筋や鎖骨についた痕は
手で覆い隠した所で何の意味もない
メールが入っている事に気付き開いてみる
『直ぐに連絡できず、すみませんでした』
誠からだった
『会いたいです』
その言葉に、胸の奥が柔らかく締め付けられる
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