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第19話

『僕も、会いたいです』 そう打ち込んで、返信する その間、ドキドキして指が震える ……誠さん… 携帯を握りしめる …だけど以前の様に純粋な気持ちになれないのは 誠が九条に心移りしているかもしれないという疑念と 自分が犯した不貞行為のせいだと思う 『今夜迎えに行きます』 その言葉通り、仕事を終えた誠が僕を迎えに来た アパートの脇に停めてあった誠の車に乗り込む 私服姿の誠に、何処か新鮮さを感じてしまう ……何処、行くんだろう 夜の景色を眺めながらそんな事をぼんやりと思う 「暑くないですか?」 「…はい」 車内はエアコンが効いていて、蒸し暑さは感じない ちらりと誠を見ると、綺麗な横顔に胸が高鳴る 鼻から唇、そして喉までの輪郭を、ゆっくりと視線でなぞっていた 「…どうかしましたか?」 少し口角を上げた誠がこちらをチラッと見る 「……い、いえ…」 顔を逸らし、再び窓の外を見た 次第に明かりが減り、車は暗闇に外灯がぽつんとある寂しい道を走る 会話はなく、カーステレオから流れる流行曲だけが車内に響く 「………」 目的地を未だ告げない誠に、僕は不安を覚えた やがて車は灯りのない真っ暗な場所に停まる 不安のまま誠を見上げる 「…思い付きで来てしまったので、見られるかどうかわかりませんが……」 そう言った誠がドアを開け外に出る ……え、見られる? 初めて一緒に観た映画がホラーだった事を思い出し、一瞬背筋が凍った 辺りを見れば、生い茂る木々に囲まれている カーステレオからは、場にそぐわない軽快な音楽が流れていた

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