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第21話

誠をチラッと見ると、誠は変わらない表情で蛍の光を眺めていた 「……誠さん」 思い切って声を掛ける 誠の顔がこちらに向き、大きな瞳が僕を捉える 「はい…」 形の良い唇の端が綺麗に上がる 「………あの、…誠さんは 九条さんと…その……」 そこまで言って口籠り、目線を下げる 背中を丸め膝をギュッと抱き、少し傾げた顔を誠に向けた 「九条と……?」 誠は不思議そうな顔を僕に見せる 『誠なら、今シャワー浴びてると思うよ』 『正直あなたより僕の方が、誠と相性いい思う …体の方もね』 九条の言葉が甦る 「………」 「…もしかして……」 誠の目が大きく見開かれ、左右に小さく黒目が動く 「……あ、いえ…」 誠は顔を逸らし、襟足を掻いた その様子を見た僕は、やっぱり後ろめたい行為があったんだ、と感じた 裏切られた、という思いと 悠と一線を越えた過ちが 現実逃避するかの様に、自分勝手に相殺する ……だけど消えた訳じゃない 寧ろ、その逆だ…… 目を逸らし、心臓が飛び出してしまいそうになるのを必死で抑え、口を開く 「……僕の事、もう必要なくなったなら… …そう、言って下さい……」 光っては消える蛍をぼんやりと眺める そうしながらも、震えそうになる手足に力を籠めた 隣で小さな吐息が聞こえる と、誠がこちらを向いた 「そんな事、ある訳ないじゃないですか……」 繋がれた手に、力が込められる 「………」 それが本心か、優しさからか 僕には計り知る事ができない 蛍はやがて 葉の影に止まり ゆらゆらと揺れる光がだんだん弱くなっていく

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