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第27話

「……双葉」 そんな空気の中、誠が口を開く 「こっち向いて」 涙を指で拭い、ゆっくりとその顔を誠に向ける 「……少し話を聞いてください」 ふぅ、と幾度目かの溜め息の後、誠は静かに口を開いた 「今まで僕は、三人の男性と交際しました いずれも相手から好意を持たれて、のお付き合いです ……でも皆、別の相手を見つけ僕から離れて行きました」 「………」 「何処か僕に、不甲斐なさがあったのでしょう…… その原因がわからないまま、また同じように振られるのが怖くて どんなに言い寄られても、僕はそれから避けてきました ……もう、恋なんてしない、と…… だけど僕は……双葉に出会ってしまったのです……」 誠の憂いを帯びた瞳が、僕を真っ直ぐ見つめる 「小動物の様に、何処か怯えながらも、一生懸命働く姿を見て……可愛いな、と 心が……揺れ動いてしまったのです」 「………」 「可愛くて愛しくなる気持ちを、何度も封印しようとしました あの店に行くのも、何度止めようと思ったかわかりません…… でも、双葉に会いたくて…… 僕の心は双葉ですぐ一杯に溢れて……愛しくて……」 溢れ出る涙が次々と零れる 俯き、それを何度も両手で拭った 「…こんなに好きな双葉を 僕は失いたくありません…… 双葉の心が、僕から離れたと思いたくはないです」 憂いを帯びた瞳が、僕から逸らされる 誠の少し緊張した空気が伝わり、僕の指先が震えた 「……それでも 僕の軽率な行動が原因で、悠さんと寄りを戻したのだとしたら…… ……僕は……」 誠の瞳から、一筋の涙が流れた それを隠す様に、誠の長い指が直ぐにそれを拐う 「双葉を、繋ぎ止める事は……」

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