30 / 92
第30話
誠の顔が離れる
瞬きを忘れた僕は、瞳だけを動かし誠を見た
吐息の音が漏れ
誠の唇が固く結ばれる
肌に触れた指は
再び脇腹辺りから滑り上がる
……いつもの、誠さん…
じゃ、ない……
下睫毛に溜まった涙が
瞬きをせずに、零れ頬を伝う
息苦しくなり呼吸が早く浅くなる
それを懸命に堪え
文字通り、息を飲み込んだ
震える指、足……
少し上擦る様に息を吸い
目を伏せ、顔を逸らし
先程付けられた痕を誠に晒す
「………」
枯れる事のない涙……
どれだけ流せば、もう出なくなるんだろう……
だけどそれを拭う事を躊躇う程
この空気に圧されている
先程の痕を誠の指が触れ
確かめるようになぞる
「………っ、」
そして鎖骨へと移動し
再びそこに熱があてがわれる
……誠、さ…
肢体に痺れが走り
瞼をギュッ、と強く閉じる
呼吸が更に浅くなり
手足が小さく震える…
……と
誠の唇がゆっくりと離された
次に何が起こるか解らず
誠の息遣いさえ小さく反応してしまう……
…しかし起こる所か
誠の気配が離れていくのを感じた
「………」
瞼を上げ
見上げればそこに
憂いを帯びた誠の瞳が揺れていた
ともだちにシェアしよう!