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第31話

それは、無言で立ち去るあの日の誠の様だった 「………」 シートベルトを閉めた誠は、無言でハンドルを握る 指先までビリビリと、まだ痺れている…… その手を、入れるだけの力でギュッと握る やっと枯れたのか 止まらなかった涙が止み、頬中がグシャグシャなのに気付く 窓から見える景色が変化し 次第に明るい街へと戻る だけど僕と誠の間には 先程の闇のまま戻る事はなかった アパートの部屋に入ると 僕は電気も点けずにベッドに倒れ込んだ 泣きすぎて目に熱をもってしまっているのがわかる 顔を洗って冷やさないと…… そう思っても、体が重く もう、何もしたくない 「………」 誠に触れられた所が まだ残っている それを辿るように、首筋、鎖骨と触れてみる 『悔しくて、堪らない…… …双葉が他の男に、触られたかと思うと…… 』 『嫉妬で狂いそうです』 初めて見た…… 誠さんのあんな顔…… いつも優しくて 触れてくる手からもそれが滲み出て…… ……なのに …怖かった…… 膝を折り、身を縮める 「………」 僕のせいだ ……僕が……誠さんを…… 再び目に涙が滲み まだ枯れてはいない事にまた気持ちが落ちる それを堪えようと 身を更に縮め目をギュッと瞑った

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