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第32話

……酷い、顔…… 翌朝、鏡に映る自分に溜め息をついた 瞼が腫れ、二重が跡形もなく消えている こんな顔じゃ、午後の接客なんてできない…… お風呂を沸かし、その間に濡れタオルで冷却する ローテーブルに鏡を立て、冷やしては覗いて見るけれど、そんな簡単に治る筈もない 「………」 幾度目か解らない溜め息をつく 昨夜の事が否応なく思い出され その度に胸を締め付けた ……誠さん… 思い出すのは、優しい眼差し そして大きな手の温もり… 鏡に映る首筋のマーキングにそっと触れる 誠さんと九条さんの間に 何かあったとして それを僕が確かめる様な事をしなければ…… 僕が……もっと…… 『…そんなに 煽らないでください』 いつになく険しい顔の誠が 僕の肌に触れた瞬間を思い出す もし僕が、九条さんだったら… ……誠さんの好きな人が、九条さんだったら もう少し、楽だったのかな…… いつもは別れ際 優しい言葉やキスをくれる けれど、昨日はそんな雰囲気もなく 顔もろくに合わせず 言葉もないまま、車から降りた 思い出すだけで 再び瞳が潤んでしまう…… ピンポーン その時チャイムが鳴った こんな時間に、誰だろう…… 戸惑いながらも立ち上がり、インターホンを確認する 「………!」 と、そこに映し出されていたのは、悠だった

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