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第36話
「…今日、バイト?」
僕の服を選びながら、悠が口を開く
元ショップ店員の悠は、付き合ってた頃よくこうして僕の服を選んでくれた
いつの間にか集まった悠好みの服やセンスは、もう僕の一部になっていて今も変わらない…
「うん…」
「何時から?」
「二時からだよ」
悠から服を手渡される
「…じゃあ、一緒に飯食いにいこうぜ!」
「え……」
「もう大分腫れ引いてるけど、いきなりバイトで人と顔合わすの、双葉気にするだろ?」
……悠…
「…うん、ありがと」
悠に笑顔を向けると、悠も嬉しそうに笑顔を返した
電車で移動し、バイト先の最寄り駅で降りる
駅前通りを悠と肩を並べて歩くと、悠が気になっているという洋食店に入った
「…うまそー」
オープンしたばかりの時間帯だったお陰で、すんなりと店に入れる
注文してそれ程待たずに料理が運ばれると、悠の目が輝いた
その子供っぽい表情に、僕の顔が緩む
悠の好物であるハンバーグから、湯気と共に美味しそうな匂いが立ち込める
「そうだね」
「食べてみるか?」
口を付けていないままのハンバーグを僕に寄越す
「…う、ううん…悠食べてよ」
慌てて断る僕に、悠はニヤッと笑う
「あーんしたら食う?」
「……ば、ばか…」
恥ずかしくて悠から視線を逸らすと、悠は意地悪く八重歯を見せた
注文したオムライスが僕の前に運ばれる
「…ん、うまい」
「良かったね」
ハンバーグを頬張る悠に目を細めて言う
「ん……でも、双葉の作ったやつの方が好きだな」
「……え…」
好き、という言葉につい反応してしまう……
「今度、作ってよ」
「……う、うん」
頬が熱くなるのが解る
僕の中に仕舞い込んだ、悠を好きという感情が、不覚にも引き出されそうになってしまう…
オムライスが思いの外大きくて
食べ切れずにいると、悠がそれを全部平らげた
三ヶ月前の悠からは想像できない……付き合ってた頃の悠が、そこにいる……
「……」
あの時悠は僕が必要だったのに
それを傍で支えられなかった僕が
悠に寄りかかろうとするなんて……
そう思うと、引き出されてしまいそうな感情が萎み
代わりに罪悪感が湧いてくる
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