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第37話
店を出て少し歩くとゲーセンが目に入った
「…ちょっと寄ってこーぜ」
悠に誘われて一緒に入る
店の入り口にはクレーンゲームがいくつかあり、その中に懐かしい景品があった
まだ学生時代
お金もそんなに無かったのに
欲しくもないあのぬいぐるみにお金を注ぎ込んで
結局取れなくて……
垂れた様な脱力系の猫のぬいぐるみを見ながら、懐かしさでふと笑みを洩らす
「……お、双葉覚えてる?」
振り返った悠が、そのぬいぐるみを指差した
「懐かしーな!」
悠がポケットから財布を取り出す
そして百円玉をいくつか拾い集めると、景品をじっと見つめた
「…なぁ双葉、これ取れたら……」
悠の言葉が途中で途切れる
「…え」
「何でもねぇ」
顔を見せないまま、悠はコインを投入する
クレーンが動き、狙った猫にアームが降りる
「………」
『なぁ、これ取れたらさ……』
不意に学生時代の悠の台詞が思い出される
『……えっち、しようぜ』
瞬間、顔に熱が集中する
……そう、だった……
欲しくもないこれを必死に取ろうとした理由……
アームが猫を捕らえ、引き上げられる
「……あー、やっぱ言っとくんだった!」
「………」
吊り上がった景品を見て悠がガッカリした様に大きな声を出す
すると、近くにいた人が驚いた様にチラチラとこちらに視線を向けた
ぽとん、と落ちたそれを拾うと
僕に寄越す
「……悠」
「いらなきゃ捨てていーから!」
その猫を、僕は受け取った
ふにゃりとして、触り心地がいい
あの時は取れなくて、結局何事もなく別れたけれど
…もし取れていたら……
顔が熱くなり、両手ですっぽりと包んだぬいぐるみを鼻先に当てる
「……ううん、大事にする」
そう言った僕の髪に、悠の手が触れた
そしてその手がぬいぐるみを包む僕の左手に触れると
優しく剥がし、きゅっと握る
それは次第に
指を絡めた恋人繋ぎに変わった
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