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第46話

結局、あまり食べられなくて残してしまった 心の奥に仕舞い込んだ筈の悠の影が 誠の前だというのに 時折ふと姿を現してしまう…… 「……すみません、折角誠さんが……」 「いえ、気にしないで下さい」 誠が優しい瞳を僕に向ける 「あの、美味しかったです……」 言ってから、取って付けたみたいだと後悔した お皿を重ね誠が立ち上がる それに気付き、僕も立ち上がると誠に止められる 「双葉は座って休んでいて下さい」 「でも……」 「……お願いします」 そう言われてしまい、再び二人掛けソファとテーブルの間に両膝を立てて座る と、ポケットに携帯とは違う異物を感じ、取り出してみる ……あ…… それは、誠に渡された鍵…… 『これから通い妻になるのかしら』 僕に忠告した後、からかう透の言葉を思い出す ……通い妻、だなんて… そんな事…… 鍵をそっとテーブルに置く そして携帯を取り出し、未送信メールを開こうとした 「……!」 突然携帯が震え、心臓が大きく跳ねる その画面に、『鳴川 悠』と表示されている 「………」 どうしよう…… チラッとキッチンに立つ誠を確認する 別れ際、心配そうな顔をした悠の姿を思い出す 『んな顔すんなよ…』 そう言った声も その後された深いキスも…… 「……」 ドクン、ドクン、…… 顔が熱くなり、携帯を持つ手のひらが汗ばむ …悠の事だから また玄関ドアの前で待ってるかもしれない…… 震える携帯を手に もう一度誠の方をチラリと見た 「…双葉」

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