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第51話

そしてその鍵を手中に収め、僕の方へと近寄る 「これは双葉のものです」 僕の右手を取りそっと開かせると、そこに先程の鍵を置く 「ちゃんと持っていて下さい」 手のひらに置かれた鍵を見る これは、誠さんの誠意だ… 「……はい」 その重みを感じながら、そう答える 誠の手が僕の耳下に触れる と、背中を丸めた誠の唇が舞い降りる 右手にある鍵をぎゅっと握り、少し顎を上げて、それを受け止めた 誠と別れ、アパートに戻る 階段を上り一番奥へと向かった 「…!!」 その玄関前に、座り込んでいる人影が見える ……悠…? 驚いて一瞬立ち止まり、だけど慌ててすぐに駆け寄る もうあれから数時間経っている…… 「…悠」 そう呼び掛けると、頭が少し動く 膝を抱えて座り、首を曲げて額を膝に付けていた悠は、やがて顔を上げた 「……よかった、」 少し色を失った様な悠の瞳が、僕を捉える その異変に不安が押し寄せる 「迎えに行ったら店閉まってるし、電話も繋がらねぇ、メールも返ってこねぇ……」 「………」 「……また変態野郎に待ち伏せされて 双葉が、拉致られた、かと……」 そこまで言うと悠の体が揺れ、崩れるようにコンクリートに倒れる 「悠っ……!」 その体を抱き止めようと 身を寄せ、両手を伸ばした 四ヶ月程前…… まだ寒い日の夜 悠は、誠に連れ去られた僕を諦めず 大輝から住所を聞き出し 玄関先で僕の帰りをひたすら待っていた…… あの時は、僕の幻が見える、と……

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