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第53話

強がったつもりなのに 目の奥がじんと熱くなり 涙が溢れる 「わり、言い過ぎた」 悠の瞳が左右に動く 「……上手くいってんじゃん、彼氏と」 僕をチラリと見た後、反対方向へと顔を向けてしまう と同時に、僕から手も離れる 「………うん」 そう答えると、悠は寝返りを打ち僕に背を向ける 直ぐそこにあるのに、遠い…… 僕はそれを、ただじっと見つめる事しかできない…… 零れた涙を拭こうとして、指を頬に当てた所で止める 『 ……擦んな、もっと腫れんぞ! 』 あの時の悠の言葉が頭の中で響く 「……もう、寂しい思いから 卒業、した……な…」 悠の声が、少しずつ小さくなってゆく それがまるで、悠が段々と消え、透明になってしまうような錯覚に陥った ……悠 小さく指が震える 息もあまり整わない… 「ゆう……」 声を掛ける 悠からの言葉は返ってこない 「悠、ごめんね……ありがとう……」 僕の事、好きでいてくれて…… ……悠……好き…… ごめんね、気付くのが遅くて…… 「ちゃんと……誠さんと、上手くやっていくから……」 しかし、悠からは何の返事も聞こえない 見れば、肩から脇腹までの体のラインが、ゆっくりと上がり下がりを繰り返している そして耳を澄ませば、聞こえたのは、寝息…… 「………」 そうなると溢れ出る気持ちが抑えきれず、口からどんどんと零れてしまう 「…ごめんね……好き…… 好き…… ……大好き……、好き……」 涙も溢れぽろぽろと零れる 嗚咽と共に吐き出した言葉は 別世界へと旅立った悠の元には届かない だからこそ、今だけ…… 「……大好き、悠……」

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