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第54話

 あれから2週間が経ち もうすっかり季節は夏になっていた 真っ青な空に綿菓子の様な入道雲 日射しはじりじりと暑く、熱気で景色が歪む 外を出てひと度歩けば、下着や服が汗で張り付いてしまう ロールカーテンをした喫茶店の店内は、ガンガンに冷房が利き、営業の外回りをしている人達の憩いの場となる カフェエプロンを付けた僕は、首筋や額を懸命にハンカチで拭う営業マンに冷たいドリンクを運んだ 少し肉付きのいい体に眼鏡を掛けたその人は、それに気付くと拭う手を止める 「ありがとう」 笑顔でそう返されると、嬉しい 僕も自然と笑顔を返す 「……あ、そうだ」 去ろうとする僕を、その人が止める 注文か、それとも不手際か…営業マンの方へ再び体を向けた 「……名前、聞いてもいいかな?」 「え……」 思わぬ展開に、驚きが隠せなかった 「成宮、なに君?」 胸にある名札を営業マンがチラリと見る 「…あ、えっと……双葉、です」 名前を聞く意図が解らず、頭が真っ白になる 「双葉君か……可愛い名前だね ありがとう」 営業マンは嬉しそうに微笑むと、少し照れたようにまたハンカチで額や首元を拭いた バイトが終わり、僕はそのまま誠さんのマンションへと向かった 大概誠は8時過ぎには帰ってくる 急ぎでなければ一旦仕事を切り上げて帰宅し、夜遅くに再び出社する 帰宅できない時は、僕のバイトが終わる時間に連絡をくれた 合鍵を使い部屋へと上がる そしてキッチンへと向かうと、夕食の準備を始めた じゃがいもを手に取り、水で泥を洗い流すと、包丁で皮を剥く …大好き、悠…… 悠への思いを口にした後 いつの間にかベッドを抱くようにして眠ってしまったらしい 気付けば辺りはすっかり明るく 居る筈の悠の姿が、そこに無かった……

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