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第57話
まるで今までのを上書きするかのように
身体中に誠を刻み込まれる
未だにまだ緊張もするし
悠を思い出さない時はない
僕の初めては悠だったし
悠のやり方しか知らない……
いずれその違和感も、回を重ねる毎に薄れていくのかもしれない……
「…あぁ、双葉」
誠の掠れる声
僕はきゅっ、と喉を締め
声が漏れないようにし、唇は少し開けたままにする
やがて、ギシギシと軋む音が次第に早くなり
僕の体も激しく揺さぶられる
その度に胸が苦しくなり
空気を求め顎先を天に向けた
「……」
事が終わり、横並びになって抱き合う
余韻に浸る誠の胸に顔を擦り寄せると、誠は僕を抱き締めたまま僕の後頭部を撫でる
「……双葉」
優しい声で囁かれる
「もう少し、このままでいさせて下さい」
誠の手や腕に、力が籠められる
あんなに肌と肌を合わせたのに、まだ足りないのだろうか……
いつもよりも長く、誠は僕を抱き締め離れ難そうに熱い息を吐いた
誠の深夜出社と共に、僕はアパートへと戻る
誠は泊まってもいいですよ、と言ったけれど
誠の部屋に一人は落ち着かない……
それに、やらなくちゃいけない事がある
押し入れから段ボールを引っ張り出し、昨日の続きを始める
少しずつ部屋の中を整理し、日常使いはしない必要なものだけを段ボールに詰めていく
「………」
どうしてこんな事をしているのかわからない
一年前に悠を吹っ切るためにした引っ越しと似ている気がする
もう会っていないのに、僕の心に居座る悠を忘れたくて
あの時心の整理ができたように
またそうできたら、と……
そしてそれは眠くなるまで続け
翌日のバイト時間前に起きるというサイクルを繰り返していた
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