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第59話
後ろから抱き締められ、脇腹を直に触られれば、一気にその雰囲気に飲み込まれる
「……誠、さん」
誠の舌が這い、耳裏を舐められる
ゾク、と鳥肌が立ち直ぐにピリピリと甘い刺激が駆け巡る
…だけど
「今日、は……」
身を竦めてそれから逃れる
毎晩行われる行為の度に、付けられるマーキング……
服で隠れない部分に幾つかそれがあり、白い肌に浮き立つその赤が、余計に目立ってしまっている
「双葉」
一度強く抱き締められた後、誠の腕が解かれ
少し寂しそうに離れていく……
「……すみません、我が儘言ってしまって」
そう言った後、首筋を左手で覆う
「いえ……僕の方こそ……」
申し訳なさそうな声が返ってくる
一気にムードは壊れ、何となく気まずさだけが残る
「……双葉」
誠の息遣いが聞こえる
その声に、振り返って誠を見た
そこには優しく目を細め、口角を綺麗に上げた誠の顔があった
その表情に、僕はホッとする
いつかの、蛍を見に行った時の様に
このまま壊れてしまうんじゃないかという不安が、みるみる消えていく
そして首筋に当てた手をそっと外し、誠にその痕を曝した
携帯が震えた
見れば透からであった
「………」
何となく、期待しなかった訳じゃない
……悠……
胸の奥に仕舞い込んだ悠への想いが疼く
あの日掬い上げた、強引で優しいキスの感触まで甦る
だけどそれを直ぐに押し込め、もう終わったのだと言い聞かせた
『飲み会は今夜よ!ちゃんと覚えてる?
誠さんも連れて来ちゃいなさいね?』
透のメールにハッとする
……そっか
すっかり忘れてた……
携帯を閉じるとポケットに仕舞い、カフェエプロンを身に付ける
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