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第60話

後で誠さんに連絡しないと…… 前のバイト員が残した洗い物をしながら、頭の片隅でそんな事を考える 3時を過ぎた頃、いつも来る眼鏡の営業マンが店に入ってきた 「いらっしゃいませ」 この頃には店内は落ち着き、ゆったりとした空気に変わる 常連客は静かに読書を楽しんだり、スマホを弄っていたり、パソコンを持ち込んで作業をしていたりする 「いつもの、お願い」 「はい」 このやり取りは、まだ名前を知らなかった頃の誠さんを彷彿とさせた ハンカチを取り出し、吹き出た汗を懸命に拭う彼に、いつものアイスコーヒーを運ぶ 「ありがとう」 そう言われると、やはり嬉しい 照れながら視線を少し外して笑顔を見せると、彼も笑顔を返してくれる 「……ねぇ、双葉君」 「はい」 笑顔のまま彼に視線を向ける と、今度は彼の方が少し視線を逸らしてしまった 「……今度、」 そこまで聞いた時、店のドアが開いた それに反応して振り返れば、スーツ姿の誠がそこにいた 誠は僕と目が合うと、目を細め綺麗な唇の端を上げる ここに来るのは久し振りで、いつも誠の部屋で会っているのに、嬉しくて自然と笑みが漏れる 「…いらっしゃいませ」 営業マンの彼から離れ、いつも利用する席に付いた誠の元へと向かう 「…宣言通り、来ちゃいました」 少し照れたように誠が微笑む 「ありがとう、ございます…… …あ、直ぐご用意しますね!」 いそいそとカウンターに戻り、アイスコーヒーとおしぼりを用意する そしてそれを誠の元へと運ぶと、誠がその大きな瞳で僕をじっと見つめた そのしっとりとした色気のある視線に焦り、目を逸らす 「……双葉のエプロン姿、可愛いです」 そう小さく囁かれ、顔が熱くなる と、誠の手が伸び、僕の手を握った 店内の客は少ないものの、大胆な誠の行動に戸惑う 「……あ、」 その時透からのメールを思い出す 「あの、今夜…透さんの職場の方達と飲み会があるのですが……  …もし誠さんが大丈夫なら……、一緒に行って欲しい、です……」 望みのないままに訊ねると、誠は考える素振りを見せた

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