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第61話

少しの間、僕から顔を逸らし考えた後、誠は握った手に力を籠める 「……うん、都合つけます」 「大丈夫、ですか?」 無理をさせているのではないか、と不安になる 「僕の兄が、多分居ると思います …もしかしたら誠さん、嫌な思いを……」 「いえ……それなら尚更、参加しないとですね」 誠は僕の不安を取り除くかの様に、笑顔を向けた 誠の言葉に、まだ肌寒い季節に海で言ってくれた誠の言葉を思い出していた 待ち合わせのショッピングモール内でブラブラしていると、不意に名前を呼ばれた様な気がした 振り返ってみても、それらしき人物は見当たらない 気のせいだったのかと再び向き直ると、目の前に男性が立っていた それに驚いてしまったけれど、よくよく見ればその人は、店に来る眼鏡を掛けた営業マンであった 「双葉君」 そう言った営業マンは、少し荒い息遣いをしていた 苦しいのか、頻りに胸を押さえる 「……今日お店に来たスーツの男と、仲良さそうに会う約束してたみたいだけど」 「え………」 そう言われ、誠の顔が浮かぶ バイト中にも関わらず、手を握られたままだった事を思い出し、見られていたのかと、体に緊張が走る 「僕の方が先だよ……双葉君」 男が手を伸ばし、僕の腕を掴んだ そして力一杯引っ張られ、蹌踉けて相手の懐へすっぽりと収まってしまう 「僕が曖昧な態度だったから、わからなかったのかな……」 僕の背中に腕が回され、片手で後頭部を撫でられる この理解できない行為がショックで、彼の今までの好印象がガラガラと崩れた 「まぁいいや……これから僕と行こうか」 お客という立場のせいで、無下に振り払えない… 僕の指が少し震える 「………あの、行くって…」 「やだなぁ、ホテルに決まってるでしょ……」 ……ホテル……?! 男の少し浮ついた声が聞こえたかと思うと、僕の後頭部を撫でていた手指がするすると首筋へ下り、掠める様にそこを撫でた

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