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第62話
その触れ方に、ゾクゾクと鳥肌が立つ
「や、やめてください…!」
男の脇腹辺りに手をつき、押し返す
「……な、何でだよ」
僕の行動に、彼は動揺し僕から簡単に手を離す
「君は、店に来るスーツ姿の営業マン相手に性的なサービスをしているんじゃないの?
僕だけ、どうして駄目なのかな……?」
「……え」
その言葉に、驚きを隠せない
首筋についた、誠さんの痕のせい…?
だとしても、どう考えても普通じゃない……
「……どういう、事ですか?」
動悸の様なドキドキが僕を襲う
単なる思い込みや勘違いなら、直ぐに正さないといけない
もしこの誤解が広まってしまったら……
そう思うと足元の床がぐにゃりと歪み、立っていられない様な錯覚を覚える
「どういう事って、……ゲイ仲間の知り合いから教えて貰ったんだよ」
「………!」
苦しくなり、胸を押さえる
……どうして……
呼吸が乱れ、苦しくなっていくのを懸命に整えようとする
そうしながら相手に顔を向け、口を開いた
「……そんな事、してないです…」
指先が痺れ、感覚がなくなっていく……
それでも息を整え、倒れそうになるのを懸命に堪える
「……彼とは、健全なお付き合いをしているだけで……
……どうして、誰が、そんな……」
目のふちに涙が溜まり、溢れ零れそうになる
「……双葉君」
その様子に、営業マンは慌てふためく
出会った時の興奮した様子はすっかり消え、まるで泣き出した赤ん坊を必死であやすかの様に、必死で作った笑顔を僕に向ける
そうしながらハンカチを取り出し、額や喉元の汗を拭う
「……まぁ、僕も最初はおかしいなとは思ったんだ……
確かにキスマークが付いてはいるけれど、そんなスレた様には見えなくて……
でもそれが売りで、ギャップの激しい子なのかとか……
……そう考え倦ねている間に、あの男といい雰囲気になって……先を越されたのかと思ったら、つい……」
胸を押さえて背中を少し丸めた僕に、男はペラペラと喋り出す
「……聞いたのは、東○会社の九条という、小柄で可愛らしい営業職の人からだよ」
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