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第64話

『飲み会を始めたわよ』と透から連絡が入ってから30分後、ショッピングモール内で誠と落ち合った そして指定された場所へと向かう 誠は会社から直接来た為、スーツ姿のままの参加だ その誠と手を繋ぎ、歩く 夜の街は、一人だとやはり危険を孕んでいて、こうして誠の大きな手に繋がれると、守られている様で安心する…… 「…どうしました?」 いつもと違う、何かを感じ取ったのだろう……誠が優しく僕を見下ろす 「……何でも、ないです」 隣に立つ誠を見上げ視線がぶつかると、僕は恥ずかしくなって直ぐに目を伏せ、首を傾げる 横髪がさらりと流れ、誠の付けた痕が曝されるのを、僕は気付いていない 先程のショックは正直残ったままだけれど これから兄と誠さんが会うと思うと、やっぱり緊張する…… 約1年半前……悠から僕宛に届いた結婚式の招待状のせいで、一度は渋々悠との仲を認めてくれた兄が、一気に男性同士の恋愛を毛嫌いする様になってしまった…… 僕を思って反対をしているのは解っている それが原因でパニック障害を患い、一時は引き籠もりとなってしまった僕を、見ていられなかったからだと思う だけど、透さんは僕の気持ちを尊重し、後押しをしてくれる あの時苦しんでいた僕に、そのままでいいんだと教えてくれた 今回誠さんを呼ぶように言ったのも、きっと、兄と会わせたいと思ったからだと思う…… 「………」 そんな僕の手を、誠は大丈夫、と言うようにぎゅっと握った 目的の店を見つけ二人で入る 活気のいい店員さんが直ぐに現れ声を掛けられる と、そこに丁度様子を見に外に出ようとした透と偶然会った 「双葉チャン…! 久しぶりねぇ……あら、ちょっと痩せたんじゃない?ちゃんとご飯食べてるのかしら」 透が声を出す度、口髭がよく動く ピチピチのノースリーブからもわかる、筋肉質で厚い胸板とそこから覗く太い腕は、格闘家を連想させる その力強い大きな手のひらで、僕の背中を叩いた 「…い、痛いです…透さん」 軽くしたつもりらしい透に訴えるも、その透はもう誠と世間話を始めていた 「………」 透さんが、僕を勇気づける為に……? 少し照れたように襟足を掻く誠に、透が詰め寄る光景を見ながらそう思った

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