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第65話
透に案内されて行くと、座敷に五人の美容師が揃っていた
うち三人が女性、二人が男性
「双葉チャン来たわよ!」
透が腕を横に振って座敷に近付く
その声に反応し、五人全員が此方に視線を向ける
その中に、兄の姿があった
兄は僕を見た後、隣に立つ誠に視線を移し顔を顰めた
座敷に上がった後、透の誘導で誠が簡単に自己紹介をする
その間、三人の女性は目を輝かせながら誠に釘付けであった
「イケメン!ヤバイ!」
「超タイプ!」
「ちょっとここ座ってください~」
誠は三人の女性に見事に捕獲され、その場から動けなくなってしまっていた
「……双葉」
必然的に空いていた兄の隣に座ると、兄が此方を見ずに僕の名を呼ぶ
そしてグラスを持ったままチラリと僕を蔑む様に見る
「お前、まさかあの男と……」
その視線が、僕の首筋に注がれたのを感じ、俯く
「……うん」
力無くそう答えると、兄はグラスを乱暴に置く
「忘れたのか、双葉……
これは不毛な恋愛だ、傷つくのはお前なんだ
……見ろ、あの男は女性に囲まれて満更でもない顔をしているじゃないか
いつかは目が覚め、お前を捨てて真っ当な道を選ぶ」
「和兄、誠さんは……」
真剣な目をした兄が、グラスを握りしめたまま僕の方に体を向ける
酔っているせいもあるのか、白目が血走り、赤い
「男を好きだの惚れただの、そんなのは単なる気の迷いだ!
あの鳴川って奴は、お前を捨ててとっとと結婚しただろ!」
「……かず…」
「……お前だって、その男と出会うまではまともだったじゃないかっ!」
兄の声の大きさに驚き、同じテーブル内でしん、と静まる
三人の女性に囲まれた誠が立ち上がると、それを透が制する
「ここは私に任せて」
そう言った透が兄の元へと身を寄せると、「和也、ちょっとこっちへ」と兄を引っ張り外へ連れ出す
その様子を見送った女性三人と男性一人は、また元の空気の中へと戻っていった
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