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第66話
透が兄を連れ去った後、注文したドリンクが運ばれる
残っていた男性が『成宮のだ』と兄の席にそれを置いた
そのグラスを目にすると、喉がカラカラに渇いている事に気が付く
先程の兄の言葉に反論しようとしたものの、誠が女性三人に囲まれている事に良い気がしないのは本当だ
……それに……
「……」
濡れたグラス内の氷が溶け、カランと涼しげな音を立てる
飲みかけのグラスはまだ半分残っているのを確認すると、新しく運ばれたドリンクに手を伸ばす
そしてそれを口に付けると、一気に飲み干した
テーブルを挟んだ向こう側にいた誠が、早いピッチで飲む僕に気付いたのか、女性三人から抜け出し、此方へ足を向けた
喉が熱い、と思ったら
血液が沸騰しじんじんと指先まで巡る
そして頭がじりじりと痺れ、クラリと一瞬視界が揺れる
「……双葉、大丈夫ですか?」
隣で声がして見ると、そこには誠の姿ががあった
だけどふわふわと体が浮くような感覚の僕には、誠が何故僕を心配してここに居るのかよくわからない……
「……大丈夫、れす……」
まだ一杯目だというのに、舌が上手く回らず、瞼が重くなり瞳が潤んで涙が零れる
「双葉」
誠が手を伸ばし
涙の線を付けた僕の頬に
折り曲げた人差し指を当てる
「……」
驚いて誠を真っ直ぐ見つめる
誠の優しい表情が視界の殆どを占め、距離の近さを感じていた
……誠さん……
誠の吐息を間近で感じる
それはまるで、キスをする時の雰囲気で、体中が更に熱くなるのが解る
「…ま、こと…さ」
それから避けるように目を伏せ、顔を逸らす
……人目があるのに…
冷静でいようと思っても、クラクラした頭では、どうしても熱が上がってしまう……
「……すみません」
それだけ言って、誠を見ずに立ち上がる
貧血した時の様に頭の中がじりじりと痺れ、半分頭を暗闇に浸し冷やした様な感覚が襲う
足元は少しふらつくけれど、悟られない様に平静を装っていた
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