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第67話
トイレに入り、手洗い場の鏡を覗く
洗顔した時についた水滴が、顎先へと流れ落ち、ポタポタと垂れる
少しは冷静になれたのか、頭も体の感覚も戻りつつある
まだ痺れの残る手でハンカチを取り出すと、顔を拭った
その時、背後からドアの開く音が聞こえた
慌ててハンカチを顔から外し、俯きながらポケットにしまう
と、入ってきた人物が、鏡越しに僕を見ている事に気付く
顔を上げ鏡を覗くと、それは……
「……双葉」
明るい茶色の髪、ピアス
そして割れた唇から覗く、僕の愛しい八重歯……
「……悠」
驚いて 振り返る
そして驚いた顔の悠を、真っ直ぐ見つめる
先程やっと落ち着いた熱が、再び燃え上がる様に熱くなる
心臓が早鐘を打ち、足元がふわふわと浮いている様に感覚が無くなる
……こんな偶然
あるのだろうか……
まるで運命の様に感じてしまう心に、僕は違うと必死で押し込める
……だけど
もし本当に運命なら……
直ぐに悠の傍に行きたいのに、その一歩がなかなか出ない
「久し振りだな」
まるで懐かしい友人に会ったかの様に、悠は距離を保ったまま笑顔を向ける
…悠は、僕の事……もう……
その意外な変化に、胸の奥がチクリと痛む
……そう、だよね……
心の奥深くから、悠への想いが溢れ
それと同時に黒くドロドロとした感情も湧き出てしまう
「……うん」
この感情が、何なのか……
解らなくて必死で胸を押さえる
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