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第70話
誠の手が僕の背中に優しく触れ、出口まで僕を誘導した時だった
その言葉に、ピクリと反応した誠の足が止まる
「あんた彼氏だろ?そいつの今の状況ちゃんと解ってんのかよ!」
背後から悠の鋭い言葉が突き刺さる
……悠……
一瞬にして空気が変わり、呼吸がまともに出来ない程張り詰めたのを肌で感じる
「どう見ても、大丈夫な訳ねーだろ!」
悠の突っかかる言い方に、誠が振り返る
僕はお腹を押さえたまま、動けない……
…このままだと、二人が……
息を飲み込み、触発して欲しくないと、誠をゆっくりと見上げた
「ご忠告、ありがとうございます」
何の感情も感じられない、誠の表情、声……
ぴしゃりと相手を封じるその物言いに、いつも感じる優しさや温かみなど微塵も感じられない…
「では、失礼致します」
そう言った誠が、綺麗に口角を上げる
しかし、その瞳にその感情も笑顔もない
「……」
僕の視線に気付いた誠は、僕に視線を落とす
と、そこにはいつもの優しい表情を浮かべた誠の顔があった
「……帰りましょうか」
僕の背中に添えた手が、優しく僕を外へと導く
「……はい、」
目を伏せ、俯く
……気付いてくれた
悠はちゃんと……
だからこそ余計に、胸がギュッと締め付けられる
そして、よく解らないドロドロとした黒い感情が
僕を責め立てる
ドアが閉まると共に
背後に感じていた悠の視線が
……消える……
「………」
顔を伏せたまま、僕は誠に支えられ、歩を進めた
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