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第71話
ベッドに横になると、膝を畳んで身を丸めた
息をすると、まだ胃の辺りが刺さる様に痛む
タクシーがアパート前に止まり、チカチカと上がるハザードが夜の闇を切る
「本当に、大丈夫なのですか?」
「…はい、大丈夫です…誠さんは仕事に戻ってください…」
それでも誠は運転手に、ここで下りると告げる
「いえ、これ以上ご迷惑は……」
「そんな事、気にしないでください」
誠の手が、座席シートに置いた僕の手の甲を包み込む
それに対し僕は力無く首を横に振る
「…今日は、折角時間を作って頂いたのに……すみません」
その手を払う事はせず、スッと横に引いて誠から離れる
「お仕事、頑張ってください」
タクシーから下りると、頭を下げる
ハザードの黄色が僕の体を規則的に照らしていたが、やがて消える
顔を上げて小さくなる車を見送ると、細く長い溜め息をついた
その溜め息は、今も続いている
……避ける様な事、しちゃった
膝を抱え、更に小さく身を縮める
悠への気持ちに気付いてしまってから、誠への罪悪感が日に日に増していく
だけど、その全てから目を逸らし、このままでいいんだ、と言い聞かせてきた
誠さんを初めてバイト先で見た時、素敵な人だな…と思ったのは本当だし
そこから発展して、一緒に映画を観に行った時は嬉しくて……
…でも、それも今思えば
僕の中にまだ悠への想いが僅かにでも残っていて
それが疼く度に
もう終わったんだ、
もう吹っ切らなくちゃ、
と、それから目を逸らしていた様にも思える
「………」
そう思ったら、自分が酷い人間に思えて仕方がない
誠さんとやっと向き合えて、やっと順調に交際が進んでいるのに……
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