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第73話
その姿を目にした僕は、慌てて和兄に近寄った
「和兄、頭を上げて……」
兄のこんな姿は、今まで見た事が無かった
兄の前に来ると、僕も両手を付いて頭を下げ兄の顔を下から覗き込む
「…あの招待状の理由を聞かされたよ……
今更、謝って済むとも思わないし、掘り返す事自体迷惑なのは解ってる」
兄は頭を上げなかった
「だけど、鳴川の心変わりが原因ではなく、俺の…いや、俺の様な考えの大人が、お前達の仲を無理矢理割いたのだと思うと……」
「……」
悠は、僕と一緒になろうとしてくれていた
……だけどそれを、悠の父親が許さず……悠を病気扱いして
有無も言わさず突然隔離病棟に入院させた……
音信不通になった僕は、捨てられたものだと思い、それでも悠を信じて待っていた
そんな矢先に届いた、結婚式の招待状……
でもそれは、悠が隔離されている間に父親が悠の相手を決め、勝手に話を進め、
婚姻届のサインも、悠ではなく父親がするという悪質なもの…
駆け落ち覚悟で病院を抜けた悠は、真っ先に僕のアパートに駆けつけたけれど
それを…兄が、『ここにはいない』と悠を追い返し
僕を探し回るうちに、その日に捕まり再び隔離病棟へ……
「その罪滅ぼしにはならないかもしれないが……今の相手と上手くいくよう、協力させてくれないか」
「………」
頭を下げる兄の前で
僕はどうしようもなく怒りが込み上げていた
「……」
それと共に、どうしようもできない悲しみが襲い
相反する感情が、ぐるぐると溶け合う事無く渦巻いていく……
……だったら
だったら助けてよ、和兄
僕を助けてよ……!
床に付いたままの手をギュッと握りしめる
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