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第74話
何も答えない僕が気になったのか、兄が頭をゆっくりと上げた
「……双葉」
兄が俯いたままの僕の肩を掴む
その手に一瞬力が籠もるが、直ぐに触れる位の弱さに変わる
「お前、痩せたな……」
兄の消え入りそうな声に、驚いて顔を上げる
そこには険しくも不安気な瞳が揺れていた
あの時と同じ……
僕がパニック障害を患い、引き籠もりになってしまった時
心配した兄は、いつもこんな瞳で僕を見ていた……
その瞳が、グルリと部屋を見回す
「……それに、この部屋は……」
部屋の隅に置かれた段ボール
棚の中には何もなく
部屋から見えるキッチンも全て、人が住んでいたとは思えない程殺風景になっていた
「……」
兄の言葉に、指先が震える
キュッと引き結んだ唇を、やっとの事で動かす
「……うん、ちょっと…気分転換」
答えながら笑顔を向ける
笑った…つもりだった
「双葉、お前……」
頬に熱いものが流れ
視界が歪んでいく
………
あれ……
額に違和感を感じ、手で確認する
……濡れタオル…?
視界に入る天井は、いつもの見慣れたものと同じだった
額のタオルを外し上体を起こすと、食べ物の匂いがするのに気付く
「……」
台所から料理をする音がし、僕はベッドから下りた
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