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第77話

店員は僕一人しかいない… 逃げられない… ギュッと握り拳を作ると、真一文字に唇を引き結びカウンター前に立つ ……この時間は、まだ営業マンが来る時間じゃない… 大丈夫…… 心の中でそう言い聞かせ、洗い場に残った食器を洗い始めた それから1時間が経ち、店内は常連客だけとなる 話し声もない静かな空間に、店内に設置されたスピーカーからJ-POPが程良い音量で流れていた そんな中、店のドアが開いた 入店した客は、僕に気付くとそのまま真っ直ぐカウンターへと向かって来た 「……大輝」 白金に近い無造作な髪、切れ長の目、口角がキュッと上がった大きな口 背丈は悠と誠の中間程でありながら、顔に幼さが僅かに残っている そんな大輝は、何故かガソリンスタンドの店員のような繋ぎにキャップを被っていた 「ん?……俺には、いらっしゃいませ、は無い?」 知った顔に今までの緊張が解け、つい忘れてしまった事に慌てふためく 「……はは、冗談」 その姿がどうやら面白かったらしい 大輝は屈託のない、……いや少し意地悪そうに歯を見せて笑う 「珍しいね、ここに来るの」 「…んー、…ちょっと双葉をからかいたくなってね」 大輝は相変わらずニヤニヤしながらテーブルに片肘をつく 「……なにそれ…」 大輝を横目で見ながら頬を膨らませる 「アイスでいい?」 「ん、…」 いつも見ないのに、メニュー表に大輝の手が伸びる するとそれをうちわ代わりにぱたぱたと扇いだ 「順調のようだね」 肩を広げて背もたれに身を預けた大輝は、アイスコーヒーを準備する僕の顔をじっと見る 「……と言いたい所だけど…… 今度は何を抱えているのかな?白状してごらん…」 にこやかに微笑みながら、今度は両腕をカウンターテーブルの上で組み、興味深げに下から覗き込む 「……な、何が?」 慌てて大輝から視線を外したけれど、大輝はもう何かに気付いている様だ 「後でいいから、ちゃんと話しなさい、…ね?」 再び片肘をつき、僕を見透かす様に大輝がじっと見る 「……う、うん」 圧されてこくんと頷く その数秒後に、嵌められた、と気付く きっと大輝にとって、僕はチョロいんだろう…… アイスコーヒーを大輝の前に出す 「…よしよし」 何だか悔しくて、むくれて視線を他所に向ける僕に対し それを慰める為か、からかうためか…… 大輝は和やかな笑顔を向け、そう言い放つ 「……もぅ…」 ……だけど 先程感じていた緊張感や緊迫感はすっかり抜け、やっといつもの自分を取り戻せた様な気がする 「……それにしても案外強いんだね、独占欲」 ニヤリと笑い、大輝が頚を傾け自身の首元を指差した

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