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第78話

瞬間僕の頬がカァッと熱くなる 以前、誠と一向に進展がないのを悟られ、大輝からアドバイスされた事を思い出してしまった その部分を左手で隠した後、キョロキョロと周りを見回し、逃げる様に別の作業に取り掛かる 「……ハハハッ」 その様子も可笑しかったのか、大輝は肩を震わせて笑っていた その時、店のドアが開いた 音に反応し振り向いてみると、スーツ姿の営業マンらしき男性が入り口に立っている 白髪交じりの髪を後ろに流し、店内を探っているのか小さな黒目が忙しなく動いている 「いらっしゃいませ」 作業の手を止め、急いでその男性の元へと向かう 「こちらへどうぞ」 壁際のテーブル席に案内する間、その男性は上から下から僕を舐め回す様に目を動かす 「……」 何となく嫌悪感を覚えながらも、笑顔を崩さず対応を続ける 「成宮くんは、君か…」 席に着くなり男は何か含むような言い方をする 僕の胸元にあるネームプレートをまじまじと見た後、厭らしく口元を歪ませた 「……サービスというのは、何処までしてくれるのかな?」 身を乗り出し顔を寄せ、何処か期待したような厭らしい目つきで僕を見上げた 薄々感じてはいたものの、店員という弱みもあり直ぐに逃げられない…… 「……っ!」 僕のお尻に違和感…… 見ればそこに、男性の手のひらが当てられている 「……!」 静かな店内で、声を上げる勇気なんてない… ましてや拒絶する言葉など…… 「……さ、サービス…なんて…」 小さな声が震え、上手く口にできない 目を伏せながら少し横に移動し、その手から逃れようとする が、男性はそんな僕を逃すものかと、僕の右手首を掴んで引っ張った ……あ、 短く強く引かれたせいか、蹌踉けて男性の左肩に手をついてしまう 足は、男の左膝をサンドするような形になってしまっていた その姿に顔を上気した男性は、ニヤニヤと口元を緩ませる 「まぁ、ここじゃ…アレだから………」 僕の手首を掴んだまま、もう片方の手がするりと僕の内ももに触れ、厭らしく撫で上げる 「……ゃ」 やっとの思いで声が出る 男性の肩に触れた手が小さく震えた瞬間だった…… 「……じゃあ俺と行こうか」 僕を男から引き剥がし、大輝が営業マンの手首を掴んで引き上げた 「警察署」 その言葉に反応してか、何人かの常連客がチラッとこちらに視線を送る それに耐えられなかったのか、営業マンは大輝の手を振り払った 「何が警察だ!…この店員が……」 「はいはい、…弁解なら警察署で、いっぱーい、しようね?」 小首を傾げ、ニヤリと大輝が笑う その物言いに、営業マンは顔を真っ赤にしながら怒りを露わにする しかし周囲の目もあり反撃には出ず、隣の椅子に置いた鞄を掴むと、逃げるように出口へと去って行った

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