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第79話

それから大輝は、僕のバイトが終わるまで付き合ってくれて 僕のアパートまで送ってくれた 大輝に部屋へ上がって貰い、冷たい麦茶を出す 「……引っ越し?」 積み上げた段ボールを見た大輝が呟く 「ううん……単なる整理」 「随分な整理だねぇ」 袖を肩まで捲り上げ、テーブルの前に胡座をかいた大輝は、兄の時と同じ様に部屋を見回した 「…んー、双葉………渡瀬に話したら?」 まだ何も言っていないのに、大輝の口から唐突にアドバイスが飛び出す 「……え」 「双葉の気持ち、ちゃんと」 「……」 大輝は何処まで僕を見透かしているのだろう…… 「……あのね、大輝」 口角をクッと上げ、両手を後ろについた大輝に向き直ると、目を伏せたまま口を開く 「……誠さんに、好意を持ってる可愛らしい人がいて……」 「……」 僕が話し出すと、大輝は真っ直ぐ真剣な目を向ける いつだってそう、……大輝は肝心な時はちゃんと耳を傾けてくれる 「その人に、…何度か、意地悪…されて…… でも、今回は…ちょっと………キツイ、かな…」 言いながら手の指が震える その指を、自身の指に絡める 「……僕が、あの喫茶店に来る…営業マン、相手に……その……」 性的サービスをしている、という噂を流されてしまった…… そう言いたいのに、口からするっと出てきてくれない 喉がぎゅっと締まり、息をするのも、やっと…… 「……」 珍しく、大輝が黙り込んでいる いつもは飄々としながらも的確な言葉を口にするのに…… 大輝の真剣な目が、僕を捕らえて離さない

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