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第80話
その鋭い視線のまま、大輝がやっと口を開く
「……双葉、いま幸せ?」
思ってもみない方向からの言葉に、僕は驚き直ぐに答えられない
「……え」
そう口をついた時だった
……!
ポケットの中の携帯が震える
取り出して画面を見れば、誠からの着信だった
……そうだ…
行けないって、連絡してなかった……
「…も、もしもし」
大輝の視線から逃れるように、少しだけ体の向きを変える
『双葉?…今何処ですか?』
少し慌てた様な誠の声に、緊張が走る
「ごめんなさい……今……」
そこまで言った所で、携帯が手から奪われる
見れば大輝が直ぐ傍に身を寄せ、僕から拾い上げた携帯を耳に当てていた
「……あ、渡瀬?」
口角を上げ大輝が応対する
「うん、……今、双葉とホテル」
「え……」
大輝の言葉に驚き、僕は携帯に手を伸ばす
が、大輝はそれをかわし僕の腕を取ると、赤子の手を捻る様に床にねじ伏せた
そして仰向けになった僕の上へ跨がり、僕を見下ろす
「……だい…き…?」
見下ろした顔が少し陰になる
その為か、口角を上げて笑う大輝が不気味に見える
「ホテルって言ったら、……解るよね?」
肩で携帯を挟むと、大輝は胸の前に構えた僕の手首を乱暴に掴む
「てことで、今取り込み中だから……」
掴まれた手を左右に開かれ、顔の横の床に上から押しつけられる
「……ゃ、大輝……やめ……」
顔が迫り、そこから逃れようと腕に力を籠める
と、大輝の左手が外れ、肩に挟んだ携帯を近くの床に置く
「……ゃだ…」
自由になった方の手で、大輝の体を押し返すも
再び大輝の手に掴まれ、簡単に床に押し戻される
「……ゃ……、」
『双葉!』
携帯から誠の声が響く
「…双葉」
僕を見下ろした大輝の唇が、少し割れる
そして手首を掴む手に力が入り、僕に顔を近付けた
「…もう、観念しなさい、ね?」
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