83 / 92

第83話

震える指で、それを開く 『お話があります』 『今夜、会えませんか?』 胸がギュッと締め付けられる 苦しくて…苦しくて… ごめんなさい…誠さん… 『はい、わかりました』 …でも、これでいいのかもしれない 誠さんが僕を見限るのなら このまま誤解されていても…… ……なんて、僕の都合のいい考えだけど 「………」 待ち合わせ場所は 初めて一緒に映画を観た後に行った、お洒落なレストラン 少し道に迷い、約束の時間に遅れてしまった 店に入ると、照明を少し落としたムーディーな雰囲気に包まれる 店員の案内で、誠のいるテーブルまで来ると、僕は一気に緊張が走る 「……双葉」 スーツ姿の誠が、穏やかな笑顔を向ける それが営業スマイルなのかどうか、僕には判断できなかった 「座ってください」 「……はい」 まるでお説教を待つ子供のように、僕は顔を伏せたまま椅子に座る 「お腹空いてませんか?」 メニュー表を目の前に出され、僕は戸惑ってしまった 「……いえ」 「食べないと、駄目ですよ」 「……」 「食べてください」 誠に圧され、僕はメニュー表に手を伸ばす そしてパラパラとめくり、食べやすそうなリゾットを指差した 誠が店員を呼び、注文をする その間も僕は、誠の顔をまともに見れなかった 誤解されたままでいい……なんて…… 誠さんが傷付くのには変わりない…… ……だから もし言うなら、ちゃんと言わないと…… そう思っているのに 中々それができず、テーブルの下で自身の指を絡める 「…双葉」 不意に呼ばれて顔を上げる そこには、少し憂いの籠もった誠の瞳が揺れていた

ともだちにシェアしよう!