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第86話
……悠……
ゆう…ゆう、ゆう…!
潮の匂い……きらりと光るシルバーピアス
悠……会いたかった……
もっとぎゅっ、ってして……
…強く僕を抱き締めて
もっと、……ねぇ、もっと……
暗い部屋に転がり込み
悠に強くしがみつく
「……双葉」
「悠……」
僕の心が
内側から壊れていく……
ドロドロとした黒い感情が、洪水の様に押し寄せ、僕を飲み込んでゆく……
「…好き、……好きなの…!」
床に倒れたまま、口からどんどん溢れてくる
「ま、待て、落ち着けって……」
「いや……離さないで……」
僕の二の腕を掴んだ悠は、戸惑いながら僕の顔を覗き込む
「お願い、悠……僕から離れないで……!」
酷い位、涙が溢れる
悠の服を掴んだ手に、力が上手く入らない
……だけど、もう離れたくなくて……ありったけの力を籠める
顔を悠の胸に埋め、すん、と鼻をすする
……悠の匂い……
まるで精神安定剤の様に、その匂いで肺の中が一杯になると、ドロドロとした黒いものが消え
穏やかな海、波の音が広がり、僕の心に色を差す
悠の心音が心地よく響き
僕は久しぶりに深い呼吸をした
「双葉……」
そんな僕に、腕枕とは反対の手が、僕の後頭部を撫でる
「……遅ぇよ、バカ」
悠の言葉が、甘く突き刺さる
居酒屋で会った時とは違う、僕の知ってる、悠……
「うん、……ごめん…」
そう答えると、髪を撫でていた悠の手が僕の背中に当てられる
「待った分……覚悟しとけよ」
悠の言葉に、僕はこくん、と小さく頷く
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