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第2話 腹黒優等生

    西園寺天は、裕福な家庭に生まれ両親に愛され、 勉強もスポーツもよくでき、そして外見も良い。 傍目から見れば嫌味なほど完璧な優等生だったが、 その実、とても困った悪癖を持っていた。 「ん、っぁ……天くん……っ」 「……っ……またやってんのかよ」 天と寮の部屋が同室である月乃が 部屋に入ろうとドアノブに手をかけた時、 それを制止するかのように聞こえたのは甘ったるいような嬌声。 明らかに情事中だと主張するそれに 月乃は呆れたように目を細めてドアを睨み付ける。 こういった取り込み中は、何もこれが初めてではなかった。 天の持つ悪癖は、女癖が非常に悪いというもの。 月乃達の通う男子校のすぐ隣には同系列の女子校があり、 生徒会に所属し、生徒会同士で互いの学校に交流が生まれる理由から 天は女子校の生徒に多大な人気があった。 「脳ミソ下半身野郎……」 週に二度、多くて三度。 若さゆえか、そんな嘘のような頻度でとっかえひっかえ手を出している天だが 酷い、といったような声は全く聞かない。 アフターケアが上手いのだろう、女子が途切れることはなさそうだ。 未だに続く甘い声に、踵を返すべきか月乃は迷った。 今日は幼なじみである一夜が部活、朝陽がバイトと 残念ながら逃げ込める場所がない。 そして、月乃にはそれ以外に頼る相手がいない。 「……ま、仕方ねぇよな」 ぼそり、呟いて深呼吸。 そしてガチャリと、無遠慮に月乃はドアノブを捻った。 「きゃあっ!?」 「っ、と……」 やはりというかなんというか、 今まさに真っ最中でしたと言わんばかりの格好の天と女子高生。 そこに不機嫌を張り付けた顔で月乃が入った途端、 目を見張るスピードで服を整えた女子高生は 月乃にぶつかりそうになりながらも慌てて走り去っていった。 「なんだ、邪魔しないでよ月乃」 「……そう思うなら毎回、一夜と朝陽が出払ってるタイミングでヤるんじゃねえよ。  確信犯なら君、相当悪趣味だぜ」 「お前に見せつけて何の得があるのさ。  ま、童貞くんには刺激が強すぎるかな、ごめんね」 「生憎、君のせいで慣れた」 鼻につく臭いに舌打ちをしながら換気のために窓を開ければ 後ろからしたのは情事とは別の鼻につく臭い。 そして、白い筋がゆっくりと窓に抜ける。 「……君なあ、本当にそれ、早死にするぞ」 「ご忠告どうも。  月乃が邪魔したから不完全燃焼でストレスなんだよ」 慣れた手つきで煙草を指に挟み、天は普段の品行方正そうな顔とは違う笑い方を。 月乃はそれに呆れるが、いつもの事だと適当に流す。 そして、読書をしようと自分のスペースに腰を下ろそうとした時だった 「月乃」 「あ?  ……っ、ん゛っ!~っ、っんん゛っ!!」 「……おすそわけ」 強く腕を引かれ、天の方へ倒れこんだと思えば 強引に唇を重ねられ、さらには後頭部を押さえつけられて 煙を無理矢理に流し込まれる。 数秒遅れて事を理解し、精一杯突っぱねれば 意外にもあっさりと体は離れた。 そして、月乃は盛大に咳き込み、噎せる。 「っ、げほ…っ!!  君、なあ…!何すんだ、いきなりっ……!」 「一人で死ぬのって嫌だからさ、  お前も早死にしてよ」 「……っはあ……っ、馬鹿じゃねえの……」 やっと息が整った頃には、天は興味を無くしたかのようにケータイをいじりはじめていた。 こんな風に、天が女をとっかえひっかえしているのも 煙草を吸っているのも、全部、一夜と朝陽は知らない。 月乃だけが知っていて、毎回天は悪い顔で言うのだ。 「俺の事を好きなお前に嫌がらせすんのに、  ほんと、どうしようもなく興奮するんだよ。  なあ、月乃?」 そして月乃は、それに決まって言葉を返す。 「君、本当に悪趣味だ」 天の悪癖も、煙草も、月乃の気持ちも、全部 他の二人は、知らない。  

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