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第4話 やさしい人気者

    「朝陽~!昼からの体育バスケだってよ!  俺らのチーム入ってよ!」 「いーよー!  あと誰がいんの?」 「俺とリョータとけいちゃん!朝陽が入れば絶対楽しいぜ」 「いいねー、やろやろ!」 橘朝陽は、とても人気者な生徒だ。 月乃達と幼なじみという関係ではあるものの、 人懐っこい性格と愛嬌のある雰囲気で周りには人が絶えず 同じクラスである月乃とは別行動も多い。 クラスの中心人物であり、昼休みも放課後も基本的に人付き合いに忙しかった。 「なあ、あと一人月乃誘っていい?」 「え、黒崎?  別にいいけど、俺ら接点なくね」 「大丈夫だって、月乃バスケ上手いから!」 反対に、月乃は常に教室の隅で読書をし、 関わるなと言うように周りを拒絶している。 加えて口が悪いため、遠巻きにされている現状だ。 しかし、朝陽はそんな月乃を蔑ろにはできなかった。 今のように、自分が誘われれば率先してそこに月乃を入れようとする。 何一つ躊躇わずに、朝陽は読書中の月乃に話しかけに行った。 「なあなあ月乃、次の体育一緒にバスケしよーな」 「……全部聞こえてた、君らの声うるせぇから」 「あ、ごめんな黒崎、邪魔しちゃった?  話すの初めてだよな、俺同じクラスの……」 「柴田くんだろ、知ってる。  わざわざ自己紹介いらねぇ」 そう言って読んでいた本から視線を上げて、月乃は相手をじっと見る。 しかし、柴田の笑顔は途中で止まっており、 その表情はみるみるうちに憮然としたものになった。 ああ、またやってしまった、と 月乃は軽い後悔をするが、それは全く表情に出ない。 柴田は朝陽に軽く何言か話すと、月乃をわざと見ずに別の友人の所へ行ってしまう。 「ほんと、先が長そうだなあ、月乃は」 「……放っておいてくれ、  君みたいに言葉選びが上手くないんだよ」 「今みたいな時はな、知ってても自己紹介してもらった方がいいんだ。  それからいろんな話してくれるから、相槌とかすればいーの」 「読書してる方が楽そうだ」 その答えに、朝陽は苦笑してから月乃の前の席に座り 癖の少ないさらりとした髪を撫でてやる。 「でも前と違って本から顔上げれたな、  えらいえらい、進歩だな!」 「子供扱いすんな、君の方が小さいのに」 「あ!言ったな!  ていうかおれ170はあるから、  月乃と4㎝しか変わらないからね!」 「じゃあ低く思えるのは顔のせいか」 その返しに、朝陽は笑って月乃の髪をぐしゃぐしゃと掻き撫ぜる。 それに対して、やめろと言いながらも やっと緊張が解れたように月乃は笑う。 朝陽は月乃のこの顔が、心を許してくれていると感じて好きだった。 月乃がクラスで孤立しようが、自分だけは側にいてやろうと この顔を見ていつも思うのだ。 「新しい友達できたら、お祝いしよーな」 「君、ほんと大袈裟だ」 できることなら月乃も、天も、一夜も。 みんなが幸せでいて、笑っていればいいと 朝陽はそう思っていつものように笑った。  

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