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第7話 意識と無意識

    「月乃、みつけた」 「……一夜がオニだといつもみつかる。  朝陽とか天だとあんまりみつけられないのに、  なにかズルでもしてるのか?」 「そんなことしてない。  月乃が、さがしてって言ってるのがきこえるんだ」 うるさいくらいのアラーム音で覚醒するまで、 月乃は今となっては懐かしい昔の夢を見ていた。 近所の公園で鬼ごっこをした朧気な記憶。 最近まですっかり忘れていたそれに まだぼうっとする頭で、つい最近の中庭での記憶が重なる。 「そういえば一夜は、昔から俺の事見つけるの上手かったな」 口に出していない言葉が聞こえるだとか、 運命だとか、そんな抽象的な理由は相変わらずだが 自分がどこかに隠れようと思った時は確かに 決まって一夜が来ていた気がする、と そこまで考えて天が起きたような音がしたので思考を中断する。 「おはよ、月乃」 「ああ……おはよう、天」 数日前、この部屋で無理矢理のキス紛いのものをされてからというもの、 天が月乃に特になにかをする事はなかった。 月乃と天は、中学まではよく一緒に居たのだが 高校にあがってからはめっきり二人で居る機会が減ってしまった。 最近は何を考えているのかいまいち掴めない、と 制服に着替えながら月乃はこっそりと天を盗み見た。 「あ、おはよー月乃!天!」 「ん、おはよ朝陽」 「おはよう、朝から君は元気だな」 天と少し会話をしながら食堂へ行けば、 元気よく手を振る朝陽に真っ先に出迎えられる。 数人に囲まれていたところから嬉しそうに 月乃と天のところへ駆けてくる様はまるで犬のようだ。 「そういえば今日身体測定あるじゃん」 「ああ、そういえば……  君の身長も伸びるといいな」 「月乃はすぐそういうこと言うー!」 トレーと水を用意しながら他愛のない会話をして、 月乃はほとんど無意識に二人ぶんの用意をしてやる。 大体、いつもこれが終わる頃になって 「月乃、後ろ髪がはねてる」 「っ!?」 その時、ちょうど後ろからかかったのは 今まさに月乃がトレーを用意してやっていた相手、一夜の声で。 いつもどおりのはずなのに、月乃はやたらと肩を震わせて ガチャン、と派手な音を立ててトレーを取り落としてしまった。 幸いプラスチック製のコップは割れはしなかったが、 多くの注目はどうしても浴びてしまって。 「悪い、驚かせたな。  水入れる前でよかった、ああ、おはよう、月乃」 「……っ、は、よ……」 駄目だ、と、月乃は思った。 できるだけ考えないようにしてはいたが 一夜は昨日、どういうわけか自分にキスをしてきたのだと 顔を見るとどうしてもそれを意識してしまってかなわない。 あれからどうやって自分の部屋に帰ったのかも 一夜に何を言われていたのかも、月乃はろくに覚えていなかった。 それほどまでに、動揺してしまっていた。 「一夜、月乃。  それ片付けといてあげるから、  ご飯先に取ってきなよ」 「ああ……悪いな、天。  月乃、行こう」 「……、……悪い」 すれ違い様、天に意味ありげな視線を寄越されたが 月乃は気づかないふりで列に並ぶ。 そして天に礼をしつつ、いつものように四人で席につく。 わざと一夜に視線を合わせないようにしていた月乃に 一夜がこっそり笑っていた事は気づかなかった。 「あー駄目だ、伸びてない!月乃は!?」 「俺は3ミリくらい。174㎝。  君よりは高いぜ、いつもだけど」 「そのうち追い越すって!  あ、なあなあ一夜は?一夜でっかいけど、  身長ってどれくらい?」 朝の食堂で朝陽が言っていたように その日は身体測定があった。 どの順番でまわろうが、別のクラスと一緒になろうが この時は構わないため、月乃達はいつもの4人で身長ゾーンへと来ている。 「俺か?俺は……ああ、189㎝だな。  あんまり伸びてもらっても困るんだが……」 「なんだよじゃあ10㎝寄越せよ~!」 「まあまあ、朝陽も170はあったんでしょ?  小さいわけじゃないからいいじゃない。  あ、僕は179㎝だったよ」 「さりげなく自慢混ぜんなよ~」 周りにわらわらと生徒が居るためか、 天はいつもの優等生モードだ。 にこにこと綺麗に笑いながら、月乃達の会話に加わる。 しかし、月乃は一夜が隣に来ても、食堂での態度とは違って動揺はしなかった。 それに対して、もういいのか、と安心したような朝陽の視線と 巧みに隠した面倒そうな天の視線とが月乃へ注がれる。 なぜ面倒そうな、かというと、月乃は顎に手を当てて何かを思案している様子で こういう時は大抵良い方向にいかない。 「月乃?どうした、何かあったか」 「え、ああ……そうだ、君のところだ」 「ん?」 見かねて声をかけた一夜に対して、 月乃は何かを思い出した顔でやっと声を出した。 月乃にはいくつか良くない癖がある。 ひとつは人見知りが過ぎて毒舌になる事、 そしてもうひとつは、何かを考え出すとその事以外に意識がいかない事、 「君と俺が15㎝差なんだけど、  最近15㎝差って言葉をどっかで見た気がして。  昨日君の部屋で見た雑誌に載ってたんだ、  15㎝差って、カップルの理想の、身長、差……」 最後の悪癖は、そうして考え付いた事を 反射的に口に出してしまう、という事だった。 そして月乃は、言葉の途中で自分が何を言っているのかを理解した。 その顔はみるみるうちに後悔に染まり、 一夜を見ながら羞恥で耳まで赤くなる。 「カップル、ねえ……」 朝陽に思いきり発言をからかわれ、さらには一夜にも遊ばれている月乃を見ながら 天はぼそりと周りに聞こえない声で呟き、 どこか面白くなさそうに片眉を少し吊り上げた。  

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