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第8話 不本意な進展

    週末の放課後、月乃はいつものように自室のドアを開きかけて、 そういえば、と、はた、と気づいて立ち止まった。 あの毎週何度も女を連れ込んでいた天は 今週は一度しか連れ込んでいない。 しかも、今日はそんな雰囲気もない。 珍しい、と思いながら、改めてドアを開ける。 「おかえり」 「天……なんだ、君、いたのか」 「ここは俺の部屋なんだけど?」 珍しく外に連れていっているのかと思った月乃は 予想に反して部屋に居た天に少し目を丸くする。 心なしか棘のあるような雰囲気に 機嫌が悪いのかと気づいてそそくさと自分のスペースに行こうとした、が、 すれ違い様、いつかとは違って、思いきり手首を掴まれた。 「……なんだよ、痛い。  君、見た目より力強ぇんだから」 「お前さ、一夜と、何したの?」 「っ……君に関係ない」 「ふーん。  まあ、前々からお前ら怪しい噂あったしね。  で、童貞と処女どっち卒業させてもらったの」 「そっ、んな事するわけないだろっ!大体キスだって不意打ち……っ!」 そこまで衝動的に言って、はっ、と月乃は口をつぐむ。 けれどそれは遅すぎて、玩具を見つけたように天の口角がつり上がる。 「関係ない、は、何かありましたって言ってるようなもんだし、  すぐ墓穴掘るのは昔からだな、月乃」 「う、わっ……!  ちょっと、おい、君何して……」 どん、と胸を押されて、月乃はちょうどその先にあった自分のベッドへと尻餅をつく。 しかし、ギシ、と軋んだ音を立てて 天は月乃の腰辺りに跨がってきた。 「そっか、一夜とはキスまでか。  なら俺とはもっと進展しような、月乃」 「進展、って」 「童貞のお前がまだ知らない、キスの先だよ。  まあ、失うのは残念ながら処女だけど」 「冗談だろ、君……相当、女に不自由してない、ぜ」 動揺と恐怖で、月乃の声はひきつる。 少し震える手で天の胸を押し返しても、 天はびくともしてくれない。 「好きな相手がハジメテでよかったな」 「……君は、俺を好きじゃないだろ、  なあ、好奇心で嫌なことまでする必要ない、  第一、君、反応……するのか、よ……」 「勿論お前の事は好きじゃないよ、でも、  お前の綺麗な顔が嫌がるのって俺の性癖には大当たりでさ。  性処理は、捗りそうだよな」 「…、…あ……」 男の色気たっぷりに上の服を脱ぐ天に、 月乃は目が離せなかった。 お互いの裸など、何度も見てきてはいるが 最近は勿論一緒に風呂などに入らないし、 海などでも天は服を着ている事が多い。 綺麗、と言えるほど均整のとれた筋肉に こんな状況といえど見惚れてしまう。 「俺が気持ちよくなるために、いっぱい嫌がってね、月乃?」 自分と違って、人当たりがよく、何でもそつなくこなせて、けれど ちゃんと悪いところも持っている、そんな天が好きだ。 それが、月乃が中学時代に抱いた天への憧れと、恋心。 こんなふうになりたいと何度も思った、隣に居たいと思ってしまった。 いつの間にか、嫌われたくない気持ちが強くなって 天に対してはいつもどこか緊張して、反抗もしない。 今だって、心は既に服従しかかっているというのに 言われた通りに反抗しようとしている。 「そう、いい子。  お前が俺の好きな反応するうちは、  ちゃんとお前の事可愛がってやるよ、一夜よりも」 「君に抱かれた、女の子は可哀想だ」 「なら、お前も可哀想だね」 届かない事はわかりきっている、遊ばれている事だって。 けれど、それでも、その指が触れただけで どうしようもなく胸がつまるのだから、 ちぐはぐな感情と行動さえも、月乃には愛しく思えた。    

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