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第9話 裏腹※
「……ぅ、あ……っ」
ぐちぐち、と、粘着質な音だけがやけに部屋に響いていた。
前をはだけさせられ、ズボンも下着も取り払われてはいたが
天はろくに月乃の肌に触れずに、ローションを手に取ったと思うと
すぐに月乃の後ろへと手を伸ばした。
「俺はね、お前を抱きたいわけじゃない。
お前で性欲処理がしたいんだよ、月乃」
そう言って、緊張もほぐれていないうちに指を突き入れられ
月乃は痛みに声をあげたものの、
天は楽しそうに笑うだけだった。
経験のない月乃にはまだわからなかったが
天の指の動きはとても快感を与えるものではない。
ただ拡げる、それだけしかない行為。
勿論、月乃の体は反応しない。
「女の子にはサービスで気持ちよくしてあげるけど、
お前はいらないよね?」
「……処理が、したいんだろ、
君はいつも、使う消耗品に……愛情でも込めてるのか、
そんな一面、意外すぎるぜ」
それでも、いつの間にか嫌がるのはやめていた。
こうなっては受け入れた方が喜ぶのだと
月乃は知っていたから。
強烈な違和感も、無理に侵入する指に嫌悪もあったが
相手が天だと、それだけで、月乃の心は
反応しない不幸な体と違って幸福だった。
「は……っ、お前のそういうところは、
最高だと思うよ、本当に」
「幼なじみに……こんな扱いをする、君の心も、
なかなか最高だと、思うけどな、っ」
いつの間にか増えた指に、相変わらず違和感が大きい。
しかし、あの完璧な天が、自分で満足してくれるのなら、
連れ込んでいる女とは違って、天から襲ったという事実があるのなら
そんな歪んだ優越感に浸っていられた。
「一夜にバレたら殺されるな」
「……そこまで俺を好きじゃないだろ」
「おめでたいね、お前」
くすくすと、おかしそうに笑いながら指が抜かれる。
そしてカチャカチャとベルトを外す音がして
月乃は思わず顔を赤くしてしまう。
「はは……童貞らしい反応どーも」
「少しは、君にサービスでもした方がいいのか?」
「必要ないよ、お前は道具だからマグロで構わないし
そんでもじゅうぶん、興奮するからね、ほら」
「……っ」
ぴとり、と後ろへと宛がわれたものは、硬くて熱い。
ああ、自分でこんなに、と、月乃もその事実に興奮した。
「お前の事、嫌いじゃないよ、月乃」
「っ、あ、……っ、……!」
ずぶずぶと、拡げられたそこに無遠慮に侵入してくるものと、
どこかが切れているような痛み。
それでも月乃の心は幸福でたまらない。
嫌いじゃない、の一言で全部救われる気分だった。
「動く、けど、お前も自分の触ったら?」
「っ……ん……」
開発など少しもされていないそこは、痛みと違和感しか生まない。
けれど、天と一緒に気持ちよくなってみたい、と
その一心で月乃は萎えている自分のものに手を伸ばす。
同時に始められた律動に痛みも違和感も強まったが
懸命に指を動かして快感を大きくする。
ああ、こんなのまるで自慰だ。
ひどく惨めで、ひどく幸福な、そんなアンバランスな行為。
やがて中に感じた熱いものに、少しだけ幸福が大きくなった、そんな気がした。
「は……っ、凄い気持ちよかったよ、俺はね」
ずるりと引き抜かれて、満ち足りたような声で言いながら笑う天。
疲労感の濃い月乃は、ちらりと目線をやってから
意味ありげに口角を吊り上げた。
「顔のつくりはまるで違うけど、俺とは4㎝しか違わないんだ、朝陽は。
後ろからなら、次はもっと君が気持ちよくなるんじゃないか、
髪の色は、知らねぇけどな」
確信めいたその言葉に、天は珍しく目を丸くする。
それから少しの沈黙のあと、堰を切ったように笑いだした。
「ははっ……!あはは…っ!
はあ……お前、俺の事悪趣味だって言うくせに、
どっちが悪趣味なんだか」
「決まってるだろ、両方さ」
どれだけ共有しても、気持ちの天秤はぴくりとも動かない、
そんな月乃と天の秘密が、またひとつ。
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