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第10話 独占欲×独占欲

    「あれ、なんだ、今帰りなの。  偶然だね、一夜」 「……天か。  まるで、狙ってたみたいだな」 放課後、部活が終わって一夜が帰ろうとした時だ。 寮までの道で、偶然と言いながら天と鉢合わせた。 生徒会の副会長のうちの一人である天と、 比較的多く活動日のある剣道部所属の一夜では 確かに帰宅時間が被る事はままあった。 しかし、実際に天と一夜が一緒に帰るのは珍しい。 証拠に、天は目を細めて悪く笑っている。 「お前、月乃に手ぇ出したんだって?」 何を話すでもなく隣を歩いていた一夜に、 天は面白そうな声音で問いかける。 それに対して天を一瞥した一夜はすぐに目を逸らして 淡々と話始めた。 「お前こそ、手を出したんだろ」 「そうだね、あいつの反応が好きだから。  あいつの事はそういう目で見てないけど」 「……月乃は、嬉しそうだった」 「そりゃああいつ、俺の事大好きじゃん。  それこそ、中学の時からさ。  バレバレだよなあ、本人は俺しか知らないと思ってるけどさ」 くすくすと笑って言う天に向ける一夜の視線は ひどく冷たいもので。 天もそれに気づいてはいるが、気にとめてないようにまた笑う。 「それで?  幼稚園からずっとずっとしてた我慢を解き放っちゃった一夜くんは、  これからどうするつもりなのかな」 「……別に。  月乃みたいに言うなら、お前に関係ない、だ」 「関係ない、ね。  それで月乃が、ひどいことされても?」 「……何?」 いつの間にか、人気のない寮の裏にまで歩いてきていた二人。 天の意味深な言葉に立ち止まった一夜は、 厳しい目を天に向ける。 「お前が月乃に手出してさ、  あいつちょっと舞い上がってたでしょ。  俺としては気に入らなかった、だから……  遊んでやったんだ、口では言えない事して」 「っ……!!」 「血出てて痛そうだったし、俺気持ちよくしてやってないからさ  見ててちょっと可哀想になったけど……  俺にされてるからって嬉しそうなんだ、最高に気持ちよかったね……っ!」 どん、と、一夜は天を強く突き飛ばした。 背を壁にぶつけた天は少し咳き込むが、 それでも楽しそうに笑っていて。 「可哀想にな、お前も。  幼稚園の頃からずっとずっと月乃が好きで、  あいつの前でしかほとんど笑わないのに。  お前の気持ちはほんの少しも月乃の中に居ないよ」 「……月乃がお前を好きじゃなかったら、  お前をどうしてたかわからないな」 「そうそう、それには感謝してるよ。  でもお前が月乃に手を出すたびに、  俺は月乃で遊んでやろうと思うよ、気に入らないからね」 相手には隠した、ひどい執着心。 いつだって、一夜の感情の針が振れるのは月乃に関する事だけだった。 今だって正直なところ腸が煮えくり返っているのに 月乃が悲しむからと、天に手出しはできないでいる。 「お前が好きなのは朝陽だろう、  どうしてそこまで月乃に固執するんだ」 「大切にしたい、幸せにしてやりたいのは朝陽さ。  ひどく扱っても壊れやしない、お気に入りの玩具は月乃だ。  朝陽は誰のものでもないから綺麗だけど、  月乃はだめだね、俺のだ、あれは。  お気に入りは人に貸さない主義でね、たとえお前でも」 「月乃はものじゃない」 「そういう台詞は、月乃の気持ちを自分に向けてからにしなよ。  まるで負け犬の遠吠えだ」 ぎり、と、握りしめた掌に爪が食い込む。 そんな夢を、何度見たことか。 自分だけを見て自分の事だけを考えて、自分の前だけで笑ってほしいなんて そんな醜い独占欲はいつだって抱いている。 どうして自分じゃない、どうして天なんだと 一夜は大好きな月乃の気持ちを、呪わずにはいられなかった。  

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