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第11話 噂話

    日々は進み、5月の始め、 月乃達の学校ではその年最初の実力テストなるものがあった。 今日はその勉強期間で、この時ばかりは授業が短縮だ。 バイトも部活もないため、月乃達の部屋にいつもの4人で集まっている。 「君、どうしてこうなるんだ、  ちゃんと授業聞いてんのか?」 「聞いてるよ!  あ、でもたまに寝てるかも!  月乃はお利口さんだよね、いつも順位が一桁だ」 「月乃は勉強とか読書しかやることがないんじゃないの、友達いないからね」 「天うるせぇ」 4人の中でもとりわけ勉強が苦手なのは朝陽で、 今は月乃がつきっきりで見てやっている。 赤点の危機だ、と聞いて月乃が憐れみの目を向けたのはつい先程の事だ。 「月乃、ここがわからない」 「何……ああ、君理系苦手だもんな。  けどすぐ隣に学年一位の王子様がいるだろ」 「天よりも月乃がいい」 「一夜、俺も傷つかないわけじゃないんだけどなぁ」 一夜は文系はできるものの、理系がとにかく苦手で。 月乃はどれもかなりできる部類なためテストの順位はよかった。 そして、天は中学の時からいつも学年一位だ。 ここは……と月乃が斜め前に移動して一夜に解説し始めたのだが、 天は暇そうにシャーペンをもて余している。 「天、じゃあこっち来ておれに教えて!  あ……おれ結構できないんだけど大丈夫?」 「朝陽の頼みなら喜んで。  なんなら泊まり掛けで教えてあげるよ?」 「え、ほんと?  おれ今回わりとやばいんだよね、  どうしよっかなあ」 天の提案に、朝陽がテキストとにらめっこをしながら悩み出す。 月乃と天は同室だが、朝陽の同室は学年もクラスも違う相手だったし どこかに泊まって、なんて事は言い出し辛かった。 しかし、テストが相当にまずいのか悩み続ける朝陽に 月乃が一度目を伏せてから口を開く。 「君が俺達の部屋に来たらいい、俺のベッド貸すから」 「えっ?じゃあ月乃は……」 「一夜、今日だけ泊めてくれ。  君、今年は一人部屋だろ」 「ああ、喜んで。  なんなら今年ずっと居てくれてもいい」 一夜の部屋は、去年まで同室だった先輩が卒業し そして今年は人数が奇数のため、必然的に生まれる一人部屋に該当していた。 思わぬラッキーに、一夜は機嫌よく月乃の頭を撫でる。 それをじっと見た朝陽は、少し考えたあとに 二人に向かって問いかけた。 「なあ、一夜と月乃って付き合ってんの?」 「……は?  君、いきなり何言うんだ、一夜がこうするのなんて誰にでも……」 「いやいや、そんなの月乃にしかしないって!  月乃の前では一夜すごい雰囲気柔らかいし、  距離近いから付き合ってるって噂いっぱいあるよ?  男子校だしそこまで珍しくないっぽいから」 「……昔からだろ、一夜がこうやって構うのは。  別に珍しい事でもないんだし、君はそれより勉強した方がいいぜ」 ため息とともに言われた言葉に、 朝陽は慌ててテキストに向き直る。 月乃は、そういえば自分にだけなのか、と 今更ながらに気づいて隣の一夜を見上げたが また頭を撫でて笑われてしまった。 「まあ、これだけいちゃついてれば噂もたつよねぇ」 「だから、別にただのスキンシップでいちゃついてなんか……」 「そう言う天こそ、俺達と朝陽だと態度が違うように思えるけどな」 「えっ、そう?  天は確かに優等生ぶってる顔はあるけど、  おれらには誰にでも優しいじゃんか」 一夜の切り返しに、きょとんとした朝陽が返す。 すると、一夜はそうだな、と一言返してテキストに視線を戻した。 「俺も月乃も、そういう感じだ」 「え、あ~……そうなんかなあ、  言われてみればそっか、一夜も優しいもんな」 一夜のフォローに朝陽が納得した事で、月乃はこっそり安堵の息を吐いた。 それによって少し俯いた月乃の横で 一夜と天が意味ありげに視線を交えていた事は気づかなかった。  

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