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第12話 滲む執着

    「というわけで、俺が責任持って君の実力テストをいい点数にしてやるから……」 「せっかく月乃が泊まってくれるんだから、  もう少し色気のある会話がしたい」 夜になって、着替えや少しの荷物を持って 一夜の部屋にやってきた月乃は、 不服そうな一夜の頭を軽くはたいた。 向こうの部屋では朝陽が頑張っている、と言えば ようやく一夜は机にテキストを広げる。 「君が特に苦手なのは数学だったか、  俺も言うほど得意じゃないが君に教えるくらいは……  おい、ちゃんと集中してくれないか」 「実力テストで順位を上げたら、何かいいことでもあるのか?」 「はあ?  そりゃあ君、成績が上がって卒業後の進路選択が……」 「そんなのは俺にとっていいことじゃないな。  例えば、そうだな……月乃と二人で出掛けられる、とか」 ぐ、と腕を掴まれて言われた言葉に 月乃はぱちぱちと数度瞬きをした。 「そんなの、行こうと思えばいつでもいけるじゃねえか。  君が部活だとかで予定合わないだけで……」 「天にも朝陽にも言わないで、  駅前なんかで待ち合わせして出かけたいな」 「いいけど……同じ寮に居るのに、変な奴だな」 約束だ、と笑って、一夜はそれきり集中して問題にとりかかった。 確かに、一夜にキスはされたが そこに甘い感情はほとんどないと思っていた月乃。 普段から距離が近いのだから、戯れのようなものだろうと思っていたのだが 天にも朝陽にも言わないで、という条件なあたり おそらく、自分が天に抱いている気持ちと似たようなものが一夜の中にあるのだろう、と そこまで考えて少し顔が赤らむ。 「集中してくれ、月乃せんせ」 「あ、ああ……悪い。  ん?君、さっきまでできなかったところなのに  スラスラ解けてるじゃねえか、なんで……」 「いいことを教えてやろうか。  俺はな、1日の間でできる限りお前を独占してたいんだ」 優しく笑って、シャーペンの頭で鼻先をつつかれたが 月乃はわざとできないふりをされていたという事実にあまりいい顔ができない。 む、と口を結んだ月乃に、一夜は悪い悪い、と眉を下げて笑って。 本当によく笑う奴だな、と月乃が思うと同時くらいには 一夜はテキストを解き終わってしまった。 「……そういえば君は、どうしてここに来たんだ?  君の成績だったら、別に選択肢もそれなりにあっただろ」 「それは、俺の方が聞きたい。  ここは勉強なんてたいしたレベルじゃないし、  特化した学科もない。  月乃ならずっと上のクラスにだっていけただろう」 「……俺は別に、家からの期待だとかもないし  上を目指してるわけでもねぇから、  ここが楽そうだっただけだ」 「……幼なじみから逃げたくて、全寮制にしたんじゃなくて?」 一夜が解き終わったテキストを見てやりながら その答案のほとんどが正解な事に対しての疑問を月乃がぶつけると、 一夜からそのまま返されて。 さらには、確信めいたトーンでかけられた言葉。 思わず月乃が、ばっ、と顔を上げると 一夜は目を細めて月乃を見ていた。 「一夜……?」 「少し、大事な話をしようか、月乃」 いつもよりもワントーン低い声で話す一夜に 月乃の中で警鐘が鳴った気がした。  

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