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第13話 2

    ずい、と、一夜が月乃の方へと身を乗り出してきて 思わず後ずさった月乃の手首を掴む。 その力はものすごく優しいものなのに どうしてか逆らえない圧があり、 月乃は不安げに一夜に視線を向けた。 「君と、大事な話……って、  今更何を話すんだ、君にはわりと……  俺は、いろいろ打ち明けてる、ぜ」 「そうか、おかしいな。  俺はまだ聞いてないんだが……  中学の時に、お前が俺達に黙って進路変更した理由」 「ちゃんと後で、言うつもりだったさ……」 「全部、手遅れになった後でか」 一夜の地雷、というものを、月乃は初めて踏み抜いた。 じ、と見てくる一夜の目は厳しく 声だっていつもより低いように聞こえる。 そもそも、中学時代に、最初こそ月乃達は同じ高校を受験しようとしていた。 けれど、その途中、月乃だけが黙って今の男子校へと進路を変更して。 それを担任がなんとなしに一夜達に話さなければ、 きっと高校は離ればなれになっていただろう。 一夜は、その事が許せない様子だった。 「あの時、お前、見たことないぐらいに焦ってたな。  朝陽がえらく傷ついてた、天はよくわからないけど……  俺だって、傷ついた」 「……悪かったよ。  ちょうど家に嫌気が差した頃で、  家を出たかったん、だ……」 「お前は昔から、嘘をつくと目を逸らすな?」 くすくすと、おかしそうに笑われているが 雰囲気は少しも柔らかくなっていない。 図星だった事に肩を揺らせば、さらに笑われて。 それから、顎に手をかけて視線を合わせられた。 「……君に、……っ君、に、言うことじゃない、かもしれないけど……  俺は、その、あの頃に……天が、すきになったんだ」 「!……ああ」 「だから、忘れたかった……。  天が朝陽を好きな事も、知ってた、から」 掠れる声で絞り出すように言えば、 一夜はやっと雰囲気をやわらげた。 そして、いつものように頭を撫でてくる。 「君がそんなに、気にしてると思わなかった。  でもこんな、醜い理由なんだ、俺のは。  だから……幻滅されそうで、言いたくなかった」 「悪いな、あの時、俺から逃げられたと思ったから。  つい熱くなった、もう聞かない」 「……君からは、嫌われたくない。  いつだって君の隣が一番落ち着くから、  君から嫌われたら、俺はどうしたらいいかわからなくなる」 そう言って俯く月乃を、一夜は優しく抱きしめた。 少し身動ぎされたものの、月乃が大人しくしているから 背中を少しだけさすってやる。 「お前が俺をそういう意味で好きじゃなくても、  俺はお前をどうしても逃がしたくないんだ。  醜いのは俺の方だな、お前の優しさに甘えてる」 「……なあ、あの時、ちゃんと聞かなかったけど、  君の、俺への気持ちって……」 「……ずっと、出会って最初の頃から、  お前の事が……お前だけが、好きだよ、月乃」 真剣な声で、目線を合わせられて。 いつかのような不意打ちでなく、ゆっくりと近づいてくる一夜の唇を 月乃は拒むことができなかった。 ゆっくり重なるそれに、安心する気持ちに、気づいてしまった。 「おい月乃、お前、部屋に忘れ物……」 そして、一夜の部屋のドアが、 天によって遠慮なしに開かれるのも 天の後ろから朝陽が顔を覗かせるのも、同時だった。  

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