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第14話 うそつきの代償

    「ちょっと……待ってよ、月乃、一夜……  何、してんの?」 「朝陽、これは……っ!  ちょっ、と、おい、一夜……!」 ドアを開けた先の光景に、朝陽は信じられないという声をあげる。 すぐさまなんとか誤魔化そうとして、月乃は 一夜から体を離そうとするが、一夜に腰の辺りに腕をまわされて また一夜の腕の中に逆戻りをしてしまった。 そして天の眉が、怪訝そうに寄る。 「別に隠してたつもりでもないんだけどな。  俺は月乃が好きだ、そういう意味で。  でも付き合っちゃいない、嘘は言ってないさ」 「だったらなんでこんな事……」 「好きな相手と二人きりで手を出さないほど、  聖人君子じゃない、それだけだ」 ぐ、と、体を引き寄せられて更に月乃は一夜に密着する。 離れようとしても力の差でびくともしない。 どういうつもりなんだ、と睨んでも、 笑って返されるだけだった。 「月乃は、一夜の事好きなの?」 「……それは……友人としては好きだ、  君達と同じで……」 「ふーん……そっか」 「あさ、っ……、んっ、!?」 しかし、見たことがない、不機嫌そうな朝陽が近づいてきたと思ったら いきなり月乃の襟ぐりを掴んで、無理やりに唇を合わせてきた。 一瞬理解が遅れたものの、月乃は反射的に 朝陽の胸を押して突き飛ばしてしまった。 「……どこが同じなわけ。  さっきの一夜は、抵抗してなかったくせに」 「君がっ、いきなり……っ!  大体っ……なんなんだ君ら、皆して俺にこんなっ……!」 「そっか、天にもされたの?」 「……、……」 朝陽の行動に驚いた一夜の腕は、緩んでいて。 月乃の腕を引いた朝陽は、睨むように一夜を見る。 一夜はそれに対してただ無表情だ。 こんな朝陽は知らない、と、 月乃は怯えたように視線を揺らした。 「おれ、この関係が大好きなんだ。  隠しごとなんかなくて、皆が同じだけ仲いいの。  そう思ってたけど……中学の時から、  月乃は隠し事ばっかりだな」 「言えるかよ、こんな事……」 「それだけじゃない、月乃が中学でされてた事だって、言ってないだろ!  天にも、一夜にも、全部、全部っ!」 「っ!?  君っ、なんでそれ、知って……っ!」 ヒステリックのように叫ぶ朝陽に、月乃は動揺が隠せない。 どうして、とか細く呟いた月乃には 天と一夜の厳しい視線が突き刺さる。 「とりあえず朝陽、今は夜だからちょっと声を抑えようか」 「……月乃、中学でされてたって……」 「あ、いや、そんな……  言うほど、たいした事じゃ……」 目を逸らしながら言う月乃に、天が不機嫌そうな顔で近づく。 厳しい視線を向けてくる一夜も、ヒステリックに叫ぶ朝陽も怖かったが この空間で何より月乃が怯えていたのは天に対してだ。 朝陽を悲しませた自分にかけられる天からの嫌悪に 何よりも怯えてしまっていた。 こんな状況になってまで、浅ましい自分の思考が嫌になる。 「たいした事じゃない?  月乃それ本気で言ってるの、ねえ」 「っ、朝陽、やめろ、言わないでくれ」 「中学でずっと、担任に体触られてたくせに!  人に触られるの怖いのだって、いつも首もとまである服着てるのだって、  急に黙って進路変えたのだって!  全部それが理由のくせに、なんで月乃は隠すの、  なんで、っ、おれ達を頼ってくれないの!」 「やめ、ろっ!」 嫌われたくない、嫌われたくない。 月乃の頭の中はそれでいっぱいだった。 迷惑をかけたくない、巻き込みたくない、 きたない自分を知られたくなんかない。 こんなきたない秘密、どこにも出さないでくれ。 そればかりがぐるぐると脳内を巡る。 あの中学での日々が蘇って呼吸が浅い、冷や汗が止まらない。 すると、そんな月乃の頭を、覚えのある優しい手が撫でた。 「……いち、や」 顔を上げると、大丈夫、と言うように笑う顔と目が合った。 「朝陽、今日はもう遅い。  お前に隠してた事は俺も悪かったよ、  仲間外れにしてたわけじゃない。  だから、とりあえず終わりにしないか。  月乃が限界そうだ」 「……あっ……!  ご、ごめん月乃、おれ……っ!」 「……悪い、その、君らを、たよっ、てない、わけじゃ、なくて……」 一夜の言葉に月乃の様子を改めて見て、 慌てて月乃に寄る朝陽。 衝動的な行動だった、と全身で物語るそれに ほんの少しだけ月乃は安心する。 「でも、月乃の隠し事については、  どこかで話す必要がありそうだ。ねぇ、月乃?」 「……っ」 幼稚園から、ずっとずっと一緒だった。 この関係が、このバランスが、卒業まで変わらないんだろうと 月乃は思っていたし、それにひどく安心していた。 けれど、その関係が、バランスが、崩れていく音がしたような、そんな気がした。  

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